2018年1月29日 BTC大暴落(下落率35%)…コインチェックハッキングからの行政処分が引き金に

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

仮想通貨の暴騰・暴落時には必ずと言っていいほど大きなファンダメンタルズ情報(以下「ファンダ」)がついて回ります。

暴騰なら好材料、暴落なら悪材料が原因になるわけですが、今回振り返る暴落は仮想通貨が常に晒されている「ハッキング」というリスクに対して反応したものになります。

そのハッキング事件とは日本の仮想通貨取引所『コインチェック』で起きたXEMの不正流出事件です。

当時のレートでは史上最大の被害額となったコインチェックのXEM流出事件ですが、世界中の仮想通貨市場に影響を与え基軸通貨であるビットコインの価格にも大きな影響を与えました。

今回はコインチェックハッキングの裏で起きた暴落について詳しく見ていきたいと思います。

暴落の概要

コインチェックがハッキングされたのは2018年1月26日未明。
市場はすぐには反応せず、2018年1月29日頃から「暴落」がはじまります。

価格下落は2月5日まで続き、取引所によって若干のバラつきはありますが、125万円から80万円まで…と、約35%の下落を記録することに。

コインチェックハッキング事件-XEM不正流出-

コインチェックから仮想通貨XEMが不正に送金されたのは2018年1月26日。
コインチェックがこの不正送金に気付いたのは送金されてから約11時間後のことでした。

不正送金されたXEMは5億2,300万XEMにもおよび、当時のレートで約580億円という多額の損失を被りました。

不正送金に気付いたコインチェックはXEMを含む全ての仮想通貨取引を一時停止、金融庁への報告や警視庁への被害届提出、またXEMを取り扱うプラットフォームNEMの開発団体NEM.io財団へ事態の収拾に向けたサポートを依頼します。

不正送金があったことは26日のうちに発表され、日付が変わるころには補償の方針についても発表されます。

不正に送金された仮想通貨NEMの保有者に対する補償方針について(2018年1月28日発表資料)

コインチェック株式会社(代表取締役社長:和田晃一良、以下:当社)が運営する仮想通貨取引所サービス「Coincheck」において発生した仮想通貨NEMの不正送金に伴い、対象となる約26万人のNEMの保有者に対し、以下の通り、補償方針を決定いたしましたので、お知らせいたします。

1月26日に不正送金されたNEMの補償について

総額 5億2300万XEM
保有者数 約26万人
補償方法 NEMの保有者全員に、日本円でコインチェックウォレットに返金いたします。
算出方法 NEMの取扱高が国内外含め最も多いテックビューロ株式会社の運営する仮想通貨取引所ZaifのXEM/JPY (NEM/JPY)を参考にし、出来高の加重平均を使って価格を算出いたします。算出期間は、CoincheckにおけるNEMの売買停止時から本リリース時までの加重平均の価格で、JPYにて返金いたします。
算出期間 売買停止時(2018/01/26 12:09 日本時間)〜本リリース配信時(2018/01/27 23:00 日本時間)
補償金額 88.549円×保有数
補償時期等 補償時期や手続きの方法に関しましては、現在検討中です。なお、返金原資については自己資金より実施させていただきます。

今般の不正送金に伴い、一部サービスの停止などお客様、取引先、関係者の皆様にご迷惑をおかけしており、重ねてお詫び申し上げます。原因究明、セキュリティ体制の強化などを含めたサービスの再開に尽力するとともに、金融庁への仮想通貨交換業者の登録申請の継続的な取り組みも併せて、今後も事業を継続して参りますので、引き続き、宜しくお願い申し上げます。

その後、警察への調査協力、金融庁への詳細報告など事態収拾に向けてコインチェックは尽力しますが29日に金融庁は「セキュリティ管理の甘さ」を指摘し、業務改善命令の行政処分(出典:『コインチェック株式会社に対する行政処分について』/関東財務局)を下します。

この行政処分がでたことをきっかけにビットコインの価格が暴落しはじめます。

そして、ビットコインが値下がりしはじめた裏で、ハッキングにあったXEMも同様に暴落しています。価格的には100円以上あった価格が45円程度まで下落しました。

そのときのチャート画像を以下に示します。

ビットコイン同様下降トレンドの途中にあって陰線が連続してついていることが分かると思います。

コインチェックでXEMを保有していたユーザー数は26万人(コインチェック公表)と言われていますが、XEM以外のビットコインやその他主要アルトコインも軒並み価格を下げたことから、間接的には、コインチェックのハッキングによって数千万人の仮想通貨ユーザーが被害を被ったと言われています。

暴落後の値動き

値幅でいうと45万円ほどの大きな下落を記録したコインチェックハッキングをきっかけとしたこの暴落ですが、2月5日に80万円の底をついた後はV字回復してほぼ暴落前の水準まで価格を戻します。

下落から大きく価格を戻した要因としては史上最高値から転じて下降トレンドに突入していたビットコインがレンジの下限値に触れたことで意識的に買いが入り反転したと考えられます。

実際、この暴落からのV字回復後、一時上昇トレンドのチャートを形成し、その後価格は底値を切り上げつつ上昇していきました。
最終的には120万円近くまで値を戻しています。

コインチェックの対応

セキュリティ体制の甘さから史上最大のハッキング事件の被害を被ることになったコインチェックですが、被害後の対応は迅速で、(仮想通貨に対する法整備がままならない状況の中にありつつも)

  • 現状の報告
  • 補償内容の発表

など、事態収拾に向けた努力をしていることが伺える対応でした。

こうしたコインチェックの対応を鑑みて、警視庁も2月26日に捜査本部を設置するなど捜査する方向で協力してくれていたようです。

コインチェック側でも

仮想通貨NEMの不正送金に関するご報告と対応について(2018年3月8日発表資料抜粋)

今般、コインチェック株式会社(代表取締役社長:和田晃一良、以下:当社)が運営する仮想通貨取引サービス「Coincheck」において、お客様からお預かりしていた仮想通貨NEMが不正アクセスにより外部へ不正送金され、また、当該不正送金に伴い同サービスの一部を一時停止するという事態となり、お客様、お取引先、関係者の皆様に多大なご迷惑とご心配をおかけしておりますことを、改めて深くお詫び申し上げます。

当社は、上記の不正送金が発覚して以降、関係機関への報告や警察の捜査等に全面的に協力するとともに、事案の解明及び原因分析について、徹底した社内調査及び外部調査を行い、外部専門家の協力も得て再発防止策の実施に取り組んでまいりました。
これまでの調査により判明した事実及び再発防止策について、以下のとおり、ご報告させていただきます。

当社は、サービスについて安全を第一に取り組み、再発防止策を徹底し、お客様の信頼を回復すべく真摯に取り組んでまいります。

  1. 本事案(不正送金)の概要
  2. 本事案の発生原因の調査及びその結果
  3. サービス再開に向けた取組み
  4. システムリスク管理態勢の強化
  5. お客様窓口の拡充とNEMの補償について
  6. 一部サービスの再開について
  7. 今後の当社の事業継続について
以下略(下記引用元URLからご参照ください)

上記のように、不正送金の概要や調査結果などを公表し今後の取り組みについても明らかにしています。

泣き寝入りの可能性もあった

コインチェックのハッキングに対する対応には不満の声を上げて訴訟を起こしたユーザーもいますが、他の仮想通貨関連のハッキング事件と比べると「対応スピード」や「補償内容」はしっかりしていると言えます。

ちなみに、2011年に起きたマウントゴックス(Mt.GOX)事件では、「盗られちゃった。ゴメンネ(*ノω・*)」程度で仮想通貨取引所からの補償は特になく運営企業は破産。

最終的には管財人である小林信明弁護士(別名「東京の鯨」)の手による財産処分…という形で債権者への補償をすることになっています。

当時は、取引所を運営するにあたって金融庁の許認可も必要なく、また法的な整備(消費者保護等)も遅れていたことから、補償無し&利用者は泣き寝入りせざるを得ないという状況でした。

それを考えると、コインチェックからの補償は相対的に見て「手厚い」といってもよいのかもしれません。

Mt.GOX(マウントゴックス)事件について詳しく知りたい方は、連載企画『仮想通貨ハッキング探偵』の第1話「[01] Mt.GOX(マウントゴックス)事件」をご覧ください。

コインチェックのその後

ハッキング事件による補償金は、自己資金(取引所として得た利益[売買取引手数料])で充足出来ていた…との報道を(当時)みかけましたが、

  • 運営の継続
  • 関東財務局への登録

には、だいぶハードルが高かったようで、2018年4月6日には適正かつ確実な業務運営の確保を目的にマネックス証券を運営する「マネックスグループ株式会社」に傘下入りし、完全子会社となっています。

これにあわせて、コインチェックの代表取締役であった和田晃一良氏は取締役を退任(執行役員に就任)するに至っています。

また、仮想通貨取引所としては、金融庁の許認可を受けていない「みなし登録事業者」だったのですが、2019年1月11日に資金決済に関する法律に基づく仮想通貨交換業者として関東財務局への登録が完了しています。

当初、2018年6月頃には”みなし”が外れるのでは…と囁かれていたのですが、ハッキング事件日から数えると1年近い時間がかかってしまいました。
それだけ「仮想通貨取引所」の事業者登録が厳しくなっている証拠かもしれませんね。

金融庁の仮想通貨に対する動きのほか、仮想通貨取引所事業者の登録年月日、みなし事業者の一覧については『[02] 「仮想通貨取引所」金融庁による厳格化4つの理由』をご覧ください。


本連載でとりあげた相場トリガーの一覧とBTC騰落率(命名の一部は当編集部で独自作成)

時期 トリガー名 BTC 原因
高値 下値 差額 騰落率
2011年6月~11月 Mt.GOXショック 1,400円 160円 1,240円 -90% ・取引所Mt.GOXのハッキング
2017年9月2日~15日 チャイナショック 55万円 30万円 -25万円 -45% ・BTCC閉鎖
・中国政府ICO違法見解
2017年12月17日~22日 先物上場失望ショック 220万円 145万円 -75万円 -45% ・BTC先物情報
・BTCドミナンス低下
2018年1月16日 韓・中FUDショック 140万円 105万円 -35万円 -25% ・韓国政府仮想通貨違法認定
2018年1月29日~2月5日 Coincheck事件ショック 125万円 80万円 -45万円 -35% ・取引所Coincheckのハッキング
2018年3月6日~10日 BINANCEハッキングショック 122万円 93万円 -29万円 -24% ・BCHのハードフォーク
2018年11月15日~18日 BCH分裂ショック 71万円 49万円 -22万円 -31% ・BCHのハードフォーク
関連記事
執筆者
hubexchangeのメディア部門を担う「編集部」の公式アカウントです。 編集長はもぐらいだー(ikenaga)。ハッキングされた取引所の事象発生から現在までを追う「ハッキング探偵」などの企画立案や執筆時マニュアルの策定などの編集部内外の標準化ツールの整備に注力中。メディア事業に興味があるアシスタント希望者求む!
whatshot ランキング
新着ユーザーズコラム
hubexchangeをフォロー!