[02] 「仮想通貨取引所」金融庁による厳格化4つの理由

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本記事は、連載企画 『はじめての仮想通貨の法律』の第2話です。

・[1] 仮想通貨に関する法律を知ろう!
・[2]「仮想通貨取引所」金融庁による厳格化4つの理由
・[3] 日本でICOは違法?法律上の「仮想通貨(暗号通貨)」とICOの実施可能要件を探る

2018年、Coincheck(コインチェック)で起こった仮想通貨NEMの不正送金事件は、仮想通貨業界を一気に駆け巡り、また、各種通過暴落の危機を巻き起こす異常事態へと発展しました。

その中で、問題となったのが、仮想通貨交換業者についての法律上の取り扱いです。

同不正送金問題を受け、一時は業務停止処分を受けていたCoincheckも2019年1月11日には関東財務局への登録が認められ、みなし仮想通貨交換業者から登録済みの仮想通貨交換業者へと変わりました。

では、仮想通貨交換業者として登録するにはどのような手続きが必要なのでしょうか。必要となる書類や費用についてもご紹介します。

仮想通貨交換業者とは

そもそも、仮想通貨交換業とは、仮想通貨法とも呼ばれている改正貸金決済法2条7項において、次の3つの条件のいずれかを業として行うことを言います。

  1. 仮想通貨の売買またはほかの仮想通貨との交換
  2. 前号に掲げる行為の媒介、取次又は代理
  3. その行う前二号に掲げる行為に関して、利用者の金銭又は仮想通貨の管理をすること

そして、これら掲げる業務を行う事業者を仮想通貨交換業者として扱い、金融庁への登録を義務付けています。

仮想通貨交換業者の規制が厳しくなった背景

現在は仮想通貨交換業者として営業するにあたっては登録制が取られているものの、その認否の権限は金融庁にゆだねられています。

しかし、以前は、仮想通貨交換業者について特段の取り締まりもなく緩やかに営業されていました。
その背景として、大きく分けて4つの視点があります。

(1)徴税機能の低下

世界レベルではともかくとして、これまでの日本では仮想通貨の浸透率が低かったため、金融庁は巨額の金銭が動く事態を想定していませんでした。

ところが、仮想通貨技術の発展と、流通量の急激な増加を野放しにしておいた場合、徴税のための「入出金の捕捉」に支障をきたす可能性がでてきました。そこで、仮想通貨の授受に対して緊急の整備が必要になったというわけです。

(2)仮想通貨を巡るトラブルの増加

監督・監査機関が無いこともあり、ICOによる資金詐取(いわゆる詐欺)が跋扈し、トラブルが急増しました。また、ICO以外にもネットワークビジネスの商材として仮想通貨が利用され、集金のための”ネタ”として利用される例も出てきました。

(3)マネーロンダリング(資金洗浄)を目的とした悪用

MoneroやLISKのような入出金情報を秘匿できる「匿名仮想通貨」によるマネーロンダリングが増加。犯罪グループやテロ組織といった反社会勢力の資金源となる可能性があり、犯罪予防の観点から取締を強化する必要が出てきました。

(4)仮想通貨交換業者のユーザー保護の必要性

先に挙げたCoincheckのNEMの不正送金事件も世間を騒がせましたが、そもそものユーザー保護の発端は2014年のMTGOX(マウントゴックス)問題に遡ります。

同事件では、MTGOXは不正アクセスにより約75万BTC(ビットコイン)を紛失、破産するに至りました。もちろん、MTGOXにてBTCを所持していたホルダーは、補償もなく泣き寝入りするしかありませんでした。

その後も、Coincheckを始め、さまざまな交換業者のセキュリテシステムに穴があったことから、通貨管理に不備が生じ、不正アクセスによる通貨紛失が続きます。
その中で、ユーザー保護を万全にする施策が急務となりました。

これまでの金融庁の動きについて

仮想通貨交換業者においてトラブルが頻発したからといって、以前より仮想通貨交換業者への取り締まりが厳しかったわけではありません。

仮想通貨交換業者を営むにあたり、そもそも金融庁の審査はなく実態はほぼ野放しとされていました。

しかし、仮想通貨を巡ってのトラブルが頻発するようになり、2016年6月には仮想通貨法(改正貸金決済法)を制定。
仮想通貨交換業の登録制度が設けられ、仮想通貨取引の安全が求められるようになりました。

また、法律施行日は2017年4月1日ではあるものの、法律改正に伴う経過措置として、その日までに既に仮想通貨業をおこなっていたものが、2017年4月1日から6カ月以内に登録申請をした場合、6カ月が経過した後も登録または登録拒否の通知がくるまでは、みなし事業者として仮想通貨交換業を行うことができる旨が取り決められました(情報通信技術の進展などの環境変化に対応するための銀行法などの一部を改正する法律 附則 第8条)。

厳格化された仮想通貨交換業者登録の審査

2017年4月1日、改正貸金決済法の施行時点では、仮想通貨交換業者登録の審査基準が緩かったため、なおも利用者保護に欠ける現状やマネロンの恐れ、システムの欠陥などが相次ぎました。
そこで、金融庁は2019年8月10日に、「『仮想通貨交換業者等の検査・モニタリング 中間とりまとめ』 / 金融庁(平成30年8月10日)」を発表するに至りました。

そこで、今後の取り組みとして、仮想通貨交換業者の登録にあたってはより一層の厳格化が求められることを示唆するに至りました。
例えば、

  • 審査時に提出する書類中の質問事項を約400項目に増設すること
  • 利用者の暗号資産を分別管理すること
  • システム構築の安全を徹底するための方策を定めること
  • 取締役会議事録を提出すること
  • 反社会勢力との取引を除外するための事前審査及び利用者が反社会勢力と判明した場合の具体的な対応策をねっていること

などの条件がさらに求められるようになりました。

仮想通貨交換業者登録時には何が必要か

仮想通貨交換業者として新規に登録する際には、審査が必要になりますが、具体的にどのような手続きとなるのでしょうか。

事前相談

申請を出す前に、事業者は金融庁に対し事前相談として、業者の概要や取り扱う仮想通貨の概要、行うサービスの概要を金融庁に説明しなければなりません。

サービスが仮想通貨交換業にあたる場合、登録申請書のドラフトを金融庁に提出します。その際、事前審査として、

  • 申請書の記載内容の過不足
  • 社内体制が整っていること(貸金決済法第63の5(登録の拒否)、および、「事務ガイドライン 第三分冊 金融会社関係 16.仮想通貨交換業者関係」として仮想通貨交換業を適正かつ確実に遂行する体制の整備がおこなわれているかなど)

の確認がおこなわれます。
後者の中では、特に、

  1. 利用者保護の見地からリスク説明の体勢が整っていること
  2. 利用者の財産が分別管理されていること
  3. システム障害などに対するリスク管理がおこなわれていること

についての確認がされると規定されています。

登録に必要な書面とは

仮想通貨交換業者として、事前審査を終えると改めて、登録申請書など書面による手続きが必要になります。
申請書の様式は以下の通りです。

  • 別紙様式第1号 登録申請書
  • 別紙様式第3号 誓約書(第6条第1項)
  • 別紙様式第4号 誓約書(第6条第3項)
  • 別紙様式第5号 履歴書
  • 別紙様式第6号 沿革
  • 別紙様式第7号 株主の名簿

提出先は、

  • 業者の本店の所在地を管轄する財務(支)局
  • 財務事務所
  • 小樽出張所
  • 北見出張所
  • 沖縄総合事務局財務部

となります。

登録時の財産的要件

ところで、仮想通貨交換業者は法人であればだれもが申請できるわけではありません。財産的な要件も設けられています。

  • 資本金が1,000万円以上
  • 純資産額がマイナスでないこと

資本金が1,000万円以上求められている理由は、仮想通貨取扱業者としてサービスを提供するための十分な余裕が必要とされているからです。

また、財産を管理すべき業者が債務超過ではサービスを十分に提供しえないため、純資産額がマイナスでないことということも要件として定められています。

仮想通貨交換業者の現在

2019年1月31日現在、仮想通貨交換業者として登録を受けている業者は全部で17です。関東財務局管轄下では14業者、近畿財務局管轄下では3業者となっています。

関東財務局

登録年月日 仮想通貨交換業者名
平成29年9月29日 株式会社マネーパートナーズ
平成29年9月29日 QUOINE株式会社
平成29年9月29日 株式会社bitFlyer
平成29年9月29日 ビットバンク株式会社
平成29年9月29日 SBIバーチャル・カレンシーズ株式会社
平成29年9月29日 GMOコイン株式会社
平成29年9月29日 ビットトレード株式会社
平成29年9月29日 BTCボックス株式会社
平成29年9月29日 株式会社ビットポイントジャパン
平成29年12月1日 株式会社DMM Bitcoin
平成29年12月1日 TaoTao株式会社
平成29年12月1日 Bitgate株式会社
平成29年12月26日 株式会社BITOCEAN
平成31年1月11日 コインチェック株式会社

関西財務局

登録年月日 仮想通貨交換業者名
平成29年9月29日 株式会社フィスコ仮想通貨取引所
平成29年9月29日 テックビューロ株式会社
平成31年12月1日 株式会社Xtheta

みなし業者

2017年4月1日、改正貸金決済法の施行時においてみなし業者とされていた業者のうち正式に仮想通貨交換業者として登録された6件のほか、7社が申請を取り下げたため、現在は2件がみなし業者として扱われています。

みなし業者名
みんなのビットコイン株式会社(楽天ウォレット株式会社)
株式会社LastRoots

なお、みんなのビットコインは、2019年3月1日付で「楽天ウォレット株式会社」に商号を変更。みんなのビットコインのサービス自体を3月末日を以て終了し、楽天クレジットからの資本金増資を受けつつ、4月1日より新サービスを開始する・・・と発表しています。

また、仮想通貨の「c0ban(コバン)」を発行している株式会社Lastrootsは、元々はSBIグループの出資を受けていましたが、2019年4月16日付けで第三者割当増資を行い、株式会社オウケイウェイヴ(OKWAVE)の連結子会社(発行済み株式の82.88%を取得)になることが公表されています。

みなし業者の各社は、資本金増強ならびにバックボーンの強化を行うことで、「みなし」外しを目指しているものと思われます。

おわりに

仮想通貨交換業者登録における審査は年々厳格化しているものの、今後、マネーフォワードフィナンシャルやLINEなど参入を予定している企業も続々と増えてきています。
一般ユーザー層の拡大などによる仮想通貨金融業の今後の広がりに期待しましょう。

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