なぜFacebook「Libra(リブラ)」は各国政府から嫌われるのか?!<暗号資産リブラ特集>

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2019年6月FacebookのCEOであるマーク・ザッカーバーグは、暗号資産リブラの立ち上げを発表しました。そこから約半年が経った今、当初の勢いは影を潜めリブラの未来は明るいとは言えない状況です。

「リブラはもう終わったんじゃないか?」という声も聞こえますが、現在のリブラの立ち位置とそこから見える未来は、暗号資産業界のマイルストーンとしてまだ追いかける意味があると考えます。この企画では、リブラの動向調査を定期的に行っていきます。本稿はその第一回です。

そもそも暗号資産リブラの特徴とその目的は?

暗号資産リブラとはそもそも何か。既存のビットコインやイーサリアム、リップルなどと同様のカテゴリーに属します。つまり「暗号通貨」「暗号資産」「仮想通貨」などと呼ばれる新時代の金融サービス、デジタル資産なのです。

暗号資産の詳細については、『BITCOIN(ビットコイン)<$BTC>』の記事をご参照ください。

それでは暗号資産リブラの重要な特徴や目的はどのようなものなのでしょうか。リブラのホワイトペーパーを読み解くと以下の内容が目玉であると感じました。

  • 銀行口座を持たない世界の31%の人々に金融サービスを提供
  • 海外送金を簡単に安い手数料で可能にする

上記だけ見ると正直目新しさは全くありません。というよりもほとんどの暗号通貨、ブロックチェーンのプロジェクトで当たり前のように実装されているサービスです。

技術的なところでいうと、リブラの開発に使用する言語がMOVEという全く新しいリブラ専用の言語であることや、ブロックチェーンは匿名性のあるタイプにすることが発表されています。しかし、この辺りもインパクトとしてはそれほど大きくは感じられません。

ですので、暗号通貨リブラはそれ自体の特異性よりも、Facebookをはじめとする世界的なデジタル企業が多く参画するプロジェクトであることがポイントと言えます。

これまでの暗号通貨業界のような一部のアーリーアダプターだけに訴求するのでなく、影響力のある有名企業がプロジェクトを推進することで一気に暗号通貨市場を拡大し、まだ未開拓な市場のシェアを早期に獲得することが狙いなのです。

2019年6月に発表され2020年のサービスインを目指す

リブラは2019年6月に存在が発表された際には、2020年にメインネットでの運用を目指すことを目標としていました。
2018年、2019年前半にはGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)がブロックチェーンや仮想通貨関係の研究や開発にリソースを注入することが盛んに報じられた中、いよいよFacebookが先陣を切って動いたかと注目を集めます。

ここ最近は自社で運用するシステムやプラットフォームにブロックチェーンを導入する流れが主流でした。そんな中暗号資産という切り口からFacebookがリブラを発表したのも、暗号資産業界にとっては明るいニュースだったと言えます。

2019年8月のG20以降雲行きが怪しく…

しかし、2019年8月に日本で開催されたG20以降、リブラの雲行きは怪しくなります。各国首脳はリブラ潰しをすることで大筋合意したと発表されたのです。

これは各国の「通貨主権」が侵されるという懸念が一つの理由です。力が弱い小国の通貨がリブラによって駆逐され急速に価値を失ってしまうというのです。確かにここ2、3年壊滅的な状況のベネズエラのように、信用のおけない自国通貨よりもビットコインやダッシュといった仮想通貨を使用する国民が増えることは他の国でも起こりうる事態です。

小国に限らず自国の既存の金融インフラにおける既得権益や、法定通貨の優位性が損なわれる可能性があることに危機感を覚えている政府は多いといえます。暗号通貨の台頭は現状必ずしも政府レベルでは歓迎されていません。

さらにリブラが何を持って価値の拠り所とするのかというのも、突っ込まれる対象になっています。
当初は「バスケット」と呼ばれる主要通貨の価値変動と連動させるシステムを予定していました。つまり、主要の法定通貨は目安にこそなれ、そのものが価値の裏付けではない独自のシステムの開発を目指していました。

しかし、この案を進めることが難しくなり、現在は各国の法定通貨と直接連動させることでリブラの価値の拠り所にする方向も模索されているということです。

2019年10月、米下院の金融サービス委員会は「フェイスブックが資産を管理することの信頼性」「既存の法定通貨ではだめでリブラを開発する理由」「今後の当局や政府と協力していく姿勢」「必要に応じてリブラを棚上げするかどうか」などをFacebookのマーク・ザッカーバーグCEOに質問したということです。

リブラの組織体制にも変化が

リブラはFacebookによって作られる暗号資産という認識が広がっていますが、正確にはそうではありません。Facebookはリブラ協会の一会員に過ぎず、リブラ協会は21の会員企業によって構成されています。 もっというとFacebookは直接参加ではなく、Calibraというリブラの専用ウォレットを作っている子会社としての参加です。

以下が2019年11月時点での参加企業です。

  • Women’s World Banking
  • Kiva
  • ANDRESSEN HOROWITZ
  • FARFETCH
  • iliad
  • Uber
  • PayU
  • coinbase
  • CREATIVE DESTRUCTION AB
  • Bison Trails
  • Calibra/facebook
  • xapo
  • ANCHORAGE
  • Spotify
  • BREAKTHROUGH INITIATIVES
  • lyA
  • THRIVE CAPITAL
  • Ribbit Capital
  • Union Square Ventures
  • vodafone
  • MERCY CORPS

しかし、ここに結成当初に名を連ねていたPayPal、eBay、Stripe、Mastercard、Visa、Mercard Pago、BOOKING HOLDINGSの姿はありません。各国での規制の姿勢が強化される中、2020年のローンチが難しい見通しになったことが影響しているとみられています。

この脱退によって決済企業は大手が皆無となり、比較的新興のPayUだけとなってしまいました。大手決済企業が決済手段として消費現場に導入することが、リブラの普及に大きな役割を果たすと考えられていただけに大きな痛手です。

リブラの今後の動きは?

リブラの熱が冷めた最も大きな原因はローンチが予定通り行かなそうであること、政府の規制によって当初の計画通りの暗号資産にならない懸念があることでしょう。

まずはリブラ協会として米政府とどう折り合いをつけるか、その着地点が明らかにならないことには開発が進まないことはもちろん、大手企業は参画に二の足を踏みます。結果として、中国元の電子化などの台頭する別勢力に足元をすくわれかねません。

しかし、明るい材料もあります。この状況の中でもリブラ協会への参加希望をする企業は1500社を超えており、当初目的としていた参画企業100社を選定することは可能な候補数です。世界全体として新しい金融ネットワークへの期待が大きいことは明らかであり、遅かれ早かれこのニーズを満たす企業が現れることは予想できます。

リブラが頓挫すれば新しい金融ネットワークの実現はまた数年遅れるでしょう。歩みを止めないように、リブラがどのような着地点を既存の政府や金融システムとの間に見いだすのか、要注目です。

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