[4] 暗号資産の法規制について振り返る

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ビットコインやイーサリアムを代表とする仮想通貨相場は2018年低迷の一途をたどり、2019年に入りようやく回復の兆しが見えてきました。

しかし、仮想通貨が浸透するにつれて避けられないのが政府をはじめとする公的機関からの規制です。特に、仮想通貨やICO、仮想通貨交換所や取引所についての規制は、法規制、自主規制面から大きく見直されてきています。では、具体的にどのような規制がされているのでしょうか。今後の規制に対しても注目してみましょう。

無法地帯だった仮想通貨

「仮想通貨」はこの数年で急速に日本国内に広まりました。

2014年2月、大量のビットコインが消失したとされるマウントゴックス事件(参考『Mt.GOX(マウントゴックス)事件 <暗号資産ハッキング探偵>』)、2018年1月XEMの不正送金がおこなわれたコインチェック事件(参考『Coincheck事件 <暗号資産ハッキング探偵>』)は記憶に新しいことでしょう。以前は一般的な認知度が低かった仮想通貨も、ニュースや新聞に取り上げられるようになり、ホルダーと呼ばれる所有者も増加傾向にあります。

今でこそ、このように認知度が高まった仮想通貨ですが、以前は流通量が少なく、「モノ」として扱われてきました。ところが、流通量が増えるにつれて社会的な意義も大きくなり、「通貨」としての機能が重視されるようになりました。

仮想通貨に規制が必要とされる理由

仮想通貨は、利便性が高く新しい支払い手段(現時点では特に一時的な金融資産として「テザー」などステーブルコインの利用が多い)として活用されつつあります。

実際に、取引がオンライン上で完結することや以前に比べて価値を増していることをうけ、現在では、仮想通貨のほうが法定通貨以上に流通しやすく、使いやすい状態が作られつつあります。その結果、仮想通貨はマネーロンダリングやテロ資金へ流用されるようになり、犯罪への利用行為も増す一方となっています。

また、先述したマウントゴックス事件やコインチェック事件に代表されるような利用者保護にかけるトラブルも増えてきたことや通貨の発行に伴う詐欺案件も横行しています。さらに、公正な価格形成が望まれることなどから規制が必要とされるようになりました。

そこで、法律の改正がされるだけでなく仮想通貨を取り扱う業者などにおける自主規制が求められるようになっています。

仮想通貨に対する法規制

仮想通貨に対する法規制としては、まず、貸金決済法の改正が挙げられます。

貸金決済法は、そもそもの規制対象を法定通貨における「資金移動」や「支払手段」「資金清算業」に限っていました。ところが、先述した仮想通貨の利用者保護やマネーロンダリング対策、取引安全の見地から2017年4月に改正貸金決済法を施行、その中で、仮想通貨についての規制が設けられています。

具体的には、以下についての取り決めがされています。

  • 法律上、仮想通貨として扱われる通貨についての定義
  • 仮想通貨交換業についての定義
  • 仮想通貨交換業を営むための登録制度
  • 仮想通貨交換業者の業務内容への規制

このように、改正貸金決済法により、法規制にかかる仮想通貨とはどのような通貨を指すのかが明確になりました。

また、仮想通貨の売買をはじめとする取引をおこなう「交換業者」についても法律内で定義され、さらに規制を設けることで安全で公正な取引が図られることとなりました。どのような規制がされたのか、確認してみましょう。

法律上、仮想通貨として扱われる通貨についての定義

仮想通貨は改正貸金決済法第2条5項1号、同2号にて定義づけがおこなわれており、第1号仮想通貨と第2号仮想通貨に分類されています。

第1号仮想通貨とは、「物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」を、第2号仮想通貨とは、「不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」を意味します。

つまり、一般に仮想通貨として出回っているものすべてを指すのではなく、これらの条件に当てはまるもののみが法律上の規制を受けることとなります。

仮想通貨交換業についての定義

仮想通貨交換業についても、改正貸金決済法第2条7項1号から3号において定義がされています。

具体的には、仮想通貨の売買又は他の仮想通貨との交換、媒介、取次又は代理を業とすること、これらの行為に関して利用者の金銭又は仮想通貨の管理をすることと定められています。そして、これらの行為を行うものを仮想通貨交換業者として取り扱われます。

仮想通貨交換業の登録制度

改正貸金決済法の大きな変更点となったポイントが、仮想通貨交換業者に対する登録制度の採用で、同法第63条の2では、「仮想鬱化交換業は、内閣総理大臣の登録を受けたものでなければ、行ってはならない。」旨が明文化されています。ただし、誰でもが登録できるのではなく、仮想通貨交換業者に関する内閣府令第9条によると、資本金の額が1,000万円以上であること、純資産額がマイナスでないことなどの財務規制があり、法令上の要件を満たした場合に登録が認められます。

仮想通貨交換業者の業務内容への規制

仮想通貨交換業者に登録されたとしても、無制限に業務がおこなえるわけではなく、改正貸金決済法上や仮想通貨交換業者関係事務ガイドライン第三分冊:金融会社関係16においていくつもの制限が設けられています。

情報提供義務

仮想通貨交換業者は仮想通貨交換業をおこなうにあたり、ユーザーが安全に取引をおこなえるように適切な方法での説明や正確な情報を提供しなければなりません。適切な方法とは、以下の通りです。

対面取引の場合 書面交付や口頭による説明を行ったうえで当該事実を記録しておくこと
非対面取引(インターネット利用)の場合 ・ホームページのリンクに関し、利用者が取引相手を誤認しない公正であること
・フィッシング詐欺対策として利用者が真正なサイトであることの証明を確認できる措置を講じるなど不正防止対策を講じていること
・利用者が仮想通貨交換業にかかる取引に関する指図内容を容易に確認、訂正できる対応がされていること

財産の分別管理

仮想通貨交換業者は、自ら所有する現金や仮想通貨と利用者から預かっている現金や仮想通貨とを分けて管理する必要があります。そのため、分別管理の仕方を具体的に定め、利用者との契約内容に記載しなければなりません。また、これらの事務が適切に行われているかどうかを年に1回、取締役会や監査役会に報告する義務があります。

不正アクセスや情報漏洩に対する対策

いわゆるサイバーセキュリティ対策として、不正アクセスや情報の窃取、改ざんや破壊、システムの停止や誤作動、個人情報の漏洩といったサイバー攻撃への対策がされている必要があります。これらの対応については、システム部門とは独立した内部監査部門によるシステム監査をし、取締役会に報告しなければなりません。また、システム障害が発生した場合の対応策も講じておかなければなりません。

犯罪収益移転防止法上の規制

仮想通貨が犯罪上の資金移動、いわゆるマネーロンダリングに用いられることにかんがみて、仮想通貨交換業者は犯罪収益移転防止法上の規制も受けます。

具体的には、口座開設時の利用者確認義務、確認記録や取引記録の作成、保存義務、疑わしい取引があった場合の届け出義務、マネーロンダリング対策ができているかについて社内管理体制を整える義務があります。

業務に対する規制

業務に対する規制は以下のように多岐にわたり、適切な業務遂行が求められています。

  • 法令遵守(コンプライアンス)規制
  • 反社会的勢力との関係阻止義務
  • 利用者からの苦情対策
  • 帳簿書類の作成保存義務
  • 事業年度ごとに行われる監査報告書を添付した報告書の作成、提出
  • 管理している現金や仮想通貨についての報告書の作成、提出
  • 業務改善命令
  • 登録の取消、抹消
  • 監督処分の公告
  • 業務廃止時における届け出

金融庁に対する立ち入り検査と研究会の設置

XEMが大量に不正送金されたコインチェック事件などを発端に、2018年、金融庁はついに動き出し、各仮想通貨交換業者への立ち入り検査をおこないました。具体的には、資産状況、顧客資産との分離などリスク管理方法、マネーロンダリング防止体制、法令遵守体制について管理されているかが検証されています。

その結果、悪質な業務をおこなっていた業者によっては業務停止命令や業務改善命令が出されることとなり、野放しにされていた仮想通貨交換業に対する指導が徹底されるようになりました。立ち入り検査は現在も随時行われており、以前に増して資産管理などの利用者保護対策がさらに手厚くなっています。

また、2018年3月には、有識者によって「仮想通貨交換業等に関する研究会」が設置されました。同研究会では、コインチェック問題を受けての仮想通貨の管理や証拠金取引、トークン発行がされることで投機的な意味合いを持つICO案件についての話し合いの場が持たれ、議論が重ねられています。

仮想通貨に対する自主規制

金融庁の立ち入り検査の結果や世論の動きを受けて、仮想通貨交換業者では日本仮想通貨交換業協会を設立しました。

同協会の設立目的は、仮想通貨交換業の適正な実施と仮想通貨交換業の健全な発展、利用者保護とされており、自主規制的な意味合いが込められています。そのため、以下のように実質的な活動を業務として取り決めています。

  • 主規制規則の制定
  • 会員である仮想通貨交換業者に対する検査
  • 会員に対する指導、勧告及び処分
  • 業務相談
  • 苦情受付
  • 情報提供
  • 統計調査

会員には、第一種会員として仮想通貨交換業者、第二種会員として貸金決済法第63条の3に規定する仮想通貨交換業者登録の申請中の事業者又は申請を予定する事業者が定められています。2019年5月末日現在、第一種会員は19法人、第二種会員は7法人が登録されており、仮想通貨交換業界をけん引する役割を担っています。

今後予定されている法規制について

仮想通貨に対する規制については、2017年に改正貸金決済法が施行されただけでなく、今後の規制が国会において議論されています。

金融庁により、現行の貸金決済法および金融商品取引法をもとに、「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律などの一部を改正する法律案」が作られ、2019年3月には閣議決定されました。

同改正案の代表的な内容は以下の通りです。

  • 「仮想通貨」を法律上「暗号資産」と呼ぶこと
  • 暗号資産はコールドウォレットでの保管を義務付けること
  • ICOトークンは金融商品取引法の対象となること

この改正案は同5月には衆議院において賛成多数をもって可決されたため、参議院での審議が進めば2020年6月に施行される予定となっています。

おわりに

現在、仮想通貨に対しては法律による規制と事業者による自主規制がされていますが、今後、仮想通貨が浸透するにつれ、より一層規制は強化される可能性があります。 ただし、規制といっても仮想通貨が使えなくなるものではなく、より取引をしやすくするためのポジティブな規制といえます。規制内容は随時変わっていくため、今後の動向をチェックしておきましょう。
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