仮想通貨の暴騰・暴落時には必ずと言っていいほど大きなファンダメンタルズ情報(以下「ファンダ」)がついて回ります。
暴騰なら好材料、暴落なら悪材料が原因になるわけですが、今回振り返る暴落は仮想通貨が常に晒されている「ハッキング」というリスクに対して反応したものになります。
そのハッキング事件とは日本の仮想通貨取引所『コインチェック』で起きたXEMの不正流出事件です。
当時のレートでは史上最大の被害額となったコインチェックのXEM流出事件ですが、世界中の仮想通貨市場に影響を与え基軸通貨であるビットコインの価格にも大きな影響を与えました。
今回はコインチェックハッキングの裏で起きた暴落について詳しく見ていきたいと思います。
コインチェックがハッキングされたのは2018年1月26日未明。
市場はすぐには反応せず、2018年1月29日頃から「暴落」がはじまります。
価格下落は2月5日まで続き、取引所によって若干のバラつきはありますが、125万円から80万円まで…と、約35%の下落を記録することに。
コインチェックから仮想通貨XEMが不正に送金されたのは2018年1月26日。
コインチェックがこの不正送金に気付いたのは送金されてから約11時間後のことでした。
不正送金されたXEMは5億2,300万XEMにもおよび、当時のレートで約580億円という多額の損失を被りました。
不正送金に気付いたコインチェックはXEMを含む全ての仮想通貨取引を一時停止、金融庁への報告や警視庁への被害届提出、またXEMを取り扱うプラットフォームNEMの開発団体NEM.io財団へ事態の収拾に向けたサポートを依頼します。
不正送金があったことは26日のうちに発表され、日付が変わるころには補償の方針についても発表されます。
総額 | 5億2300万XEM |
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保有者数 | 約26万人 |
補償方法 | NEMの保有者全員に、日本円でコインチェックウォレットに返金いたします。 |
算出方法 | NEMの取扱高が国内外含め最も多いテックビューロ株式会社の運営する仮想通貨取引所ZaifのXEM/JPY (NEM/JPY)を参考にし、出来高の加重平均を使って価格を算出いたします。算出期間は、CoincheckにおけるNEMの売買停止時から本リリース時までの加重平均の価格で、JPYにて返金いたします。 |
算出期間 | 売買停止時(2018/01/26 12:09 日本時間)〜本リリース配信時(2018/01/27 23:00 日本時間) |
補償金額 | 88.549円×保有数 |
補償時期等 | 補償時期や手続きの方法に関しましては、現在検討中です。なお、返金原資については自己資金より実施させていただきます。 |
その後、警察への調査協力、金融庁への詳細報告など事態収拾に向けてコインチェックは尽力しますが29日に金融庁は「セキュリティ管理の甘さ」を指摘し、業務改善命令の行政処分(出典:『コインチェック株式会社に対する行政処分について』/関東財務局)を下します。
この行政処分がでたことをきっかけにビットコインの価格が暴落しはじめます。
そして、ビットコインが値下がりしはじめた裏で、ハッキングにあったXEMも同様に暴落しています。価格的には100円以上あった価格が45円程度まで下落しました。
そのときのチャート画像を以下に示します。
ビットコイン同様下降トレンドの途中にあって陰線が連続してついていることが分かると思います。
コインチェックでXEMを保有していたユーザー数は26万人(コインチェック公表)と言われていますが、XEM以外のビットコインやその他主要アルトコインも軒並み価格を下げたことから、間接的には、コインチェックのハッキングによって数千万人の仮想通貨ユーザーが被害を被ったと言われています。
値幅でいうと45万円ほどの大きな下落を記録したコインチェックハッキングをきっかけとしたこの暴落ですが、2月5日に80万円の底をついた後はV字回復してほぼ暴落前の水準まで価格を戻します。
下落から大きく価格を戻した要因としては史上最高値から転じて下降トレンドに突入していたビットコインがレンジの下限値に触れたことで意識的に買いが入り反転したと考えられます。
実際、この暴落からのV字回復後、一時上昇トレンドのチャートを形成し、その後価格は底値を切り上げつつ上昇していきました。
最終的には120万円近くまで値を戻しています。
セキュリティ体制の甘さから史上最大のハッキング事件の被害を被ることになったコインチェックですが、被害後の対応は迅速で、(仮想通貨に対する法整備がままならない状況の中にありつつも)
など、事態収拾に向けた努力をしていることが伺える対応でした。
こうしたコインチェックの対応を鑑みて、警視庁も2月26日に捜査本部を設置するなど捜査する方向で協力してくれていたようです。
コインチェック側でも
上記のように、不正送金の概要や調査結果などを公表し今後の取り組みについても明らかにしています。
コインチェックのハッキングに対する対応には不満の声を上げて訴訟を起こしたユーザーもいますが、他の仮想通貨関連のハッキング事件と比べると「対応スピード」や「補償内容」はしっかりしていると言えます。
ちなみに、2011年に起きたマウントゴックス(Mt.GOX)事件では、「盗られちゃった。ゴメンネ(*ノω・*)」程度で仮想通貨取引所からの補償は特になく運営企業は破産。
最終的には管財人である小林信明弁護士(別名「東京の鯨」)の手による財産処分…という形で債権者への補償をすることになっています。
当時は、取引所を運営するにあたって金融庁の許認可も必要なく、また法的な整備(消費者保護等)も遅れていたことから、補償無し&利用者は泣き寝入りせざるを得ないという状況でした。
それを考えると、コインチェックからの補償は相対的に見て「手厚い」といってもよいのかもしれません。
ハッキング事件による補償金は、自己資金(取引所として得た利益[売買取引手数料])で充足出来ていた…との報道を(当時)みかけましたが、
には、だいぶハードルが高かったようで、2018年4月6日には適正かつ確実な業務運営の確保を目的にマネックス証券を運営する「マネックスグループ株式会社」に傘下入りし、完全子会社となっています。
これにあわせて、コインチェックの代表取締役であった和田晃一良氏は取締役を退任(執行役員に就任)するに至っています。
また、仮想通貨取引所としては、金融庁の許認可を受けていない「みなし登録事業者」だったのですが、2019年1月11日に資金決済に関する法律に基づく仮想通貨交換業者として関東財務局への登録が完了しています。
当初、2018年6月頃には”みなし”が外れるのでは…と囁かれていたのですが、ハッキング事件日から数えると1年近い時間がかかってしまいました。
それだけ「仮想通貨取引所」の事業者登録が厳しくなっている証拠かもしれませんね。
時期 | トリガー名 | BTC | 原因 | |||
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高値 | 下値 | 差額 | 騰落率 | |||
2011年6月~11月 | Mt.GOXショック | 1,400円 | 160円 | 1,240円 | -90% | ・取引所Mt.GOXのハッキング |
2017年9月2日~15日 | チャイナショック | 55万円 | 30万円 | -25万円 | -45% | ・BTCC閉鎖 ・中国政府ICO違法見解 |
2017年12月17日~22日 | 先物上場失望ショック | 220万円 | 145万円 | -75万円 | -45% | ・BTC先物情報 ・BTCドミナンス低下 |
2018年1月16日 | 韓・中FUDショック | 140万円 | 105万円 | -35万円 | -25% | ・韓国政府仮想通貨違法認定 |
2018年1月29日~2月5日 | Coincheck事件ショック | 125万円 | 80万円 | -45万円 | -35% | ・取引所Coincheckのハッキング |
2018年3月6日~10日 | BINANCEハッキングショック | 122万円 | 93万円 | -29万円 | -24% | ・BCHのハードフォーク |
2018年11月15日~18日 | BCH分裂ショック | 71万円 | 49万円 | -22万円 | -31% | ・BCHのハードフォーク |