2009年に最初の仮想通貨ビットコインが誕生してから10年が経ちました。
10年の間にビットコイン以外にも新たな仮想通貨がたくさん生み出され、そして消えていきました。
将来性を期待されながら消えていった仮想通貨も数多くある中、ビットコインをはじめとした生き残っている通貨は本当に強い通貨といえると思います。
ただし、生き残っている通貨も他の金融商品では考えられないような暴騰・暴落を何度も記録している通貨が多く、投資対象として魅力的な面がある反面、危険な面ももちあわせています。
本連載ではそんな仮想通貨で過去に起こった暴騰・暴落を振り返りその時何が起きていたのか仮想通貨の歴史を掘り起こしてみたいと思います。
なお、初回である本稿では2011年6月から11月にかけて起きたビットコインの大暴落について振り返っていきたいと思います。
下落率という点では過去最大の大暴落となったこの時の値動きですが当時何があったのか見ていきましょう。
2011年6月から11月にかけておきたこの大暴落は約90%というビットコインの歴史上最大の下落率を記録しました。
値幅で見ると約1,400円から160円程度まで下落しています。
約1,400円の価格をつけていた2011年6月頃は、瞬間的な価格としては2,500円以上をつけたこともあるほどビットコイン取引は過熱していたのでこの暴落がいかに大きなものだったか分かるかと思います。
現在のビットコインの価格を知っていると値幅的には大したことないように見えますが、下落率の大きさだけではなく、ビットコインが誕生して初めてといえる大暴落だったことからビットコインが大きくニュースに取り上げられる事態にもなりました。
この大暴落のきっかけになったのは、当時世界最大のビットコイン取引量を誇っていた日本の仮想通貨取引所Mt.GOXで起きたハッキング事件でした。
2011年6月9日、Mt.GOXのセキュリティを突破したハッカーは、ユーザーIDやパスワードハッシュを盗み出しMt.GOXのデータベースを入手します。
ハッカーは入手したデータを使ってMt.GOXへ不正ログインし売買価格を不正に操作することで1BTC=1セントという価格が示されます。
この不正な価格はシステムによって数分後に補正されますが、ロールバックはできず、一連の不正操作によってMt.GOXは約875万ドル(約7億円)の損害を被ったとともに取引を一時停止する事態となりました。
当時世界最大規模の取引所であったMt.GOX取引停止の影響は大きく、事件をきっかけにビットコインの価格は下落を開始。
6月時点で1,400円程度をつけていたビットコインは11月14日に約160円という価格をつけます。
世界のビットコイン取引量のほとんどをMt.GOXでまかなっていたためビットコインの価格は日本での取引に完全に追従する形で下落が進みました。
Mt.GOXでのハッキングがあった当時のTwitterの反応をまとめてみました。
当時はビットコインを購入するにも売却(現金化)するにも大変な時代でビットコインの価格の上下や関連するファンダ情報の発信はあまり活発に行われていない時代でした。
そのため、ニュースの1つとして取り上げる方がいるぐらいで最近のTwitterでの仮想通貨に対する反応とは大きく異なることが分かります。
"今後通知があるまでは、Mt. Goxから情報(認証証明など)をダウンロードしないほうがよい。" Bitcoinの最人気の交換所Mt. Goxが盗まれたアカウントにより崩壊 http://bit.ly/iIvC3w
— 65.55kg↓ - 10/16 (@she1182) June 21, 2011
数日前にあるユーザーから25000bcが盗まれた事件があったが、それが資金源かな / Bitcoinの最人気の交換所Mt. Goxが盗まれたアカウントにより崩壊 http://htn.to/jA9wLy
— チタママ (@uasi) June 21, 2011
Bitcoinの最人気の交換所Mt. Goxが盗まれたアカウントにより崩壊: Bitcoinは、新しい通貨が初期に必ず経験する紆余曲折に、見舞われているようだ。Bitcoinは今2歳だが、メジャーな... http://bit.ly/k0chWx (TechCrunch)
— アイナビ (@itemnavi) June 21, 2011
【基盤になっているピアツーピアのトランザクション清算処理は、少なくとも今回の事件では、侵犯されていないようだ】とはいえ…… / Bitcoinの最人気の交換所Mt. Goxが盗まれたアカウントにより崩壊 http://htn.to/gWcpao
— まろやか🐟ついに来た浅利773戦国時代! (@MaroYakaZ) June 21, 2011
他にもビットコインのハッシュがソルト無しMD5だとか、Mt.Goxのパスワードもペンティアムで24時間で2300分解読出来たとか話題出てます RT @sen_u 交換サイトMt Goxのハッキング、CSRFによりビットコインが暴落 http://bit.ly/m0FQFx
— Gohsuke Takama (@gohsuket) June 21, 2011
Mt.GOXでのハッキング事件は取引所のセキュリティを突破したハッカーによる犯行でした。
現在でも仮想通貨自体、怪しい、胡散臭いというイメージが払拭し切れていませんがその一因にこういったMt.GOXのようなハッキング事件が度々起こることがあります。
事件の概要を読んでいただければわかるかと思いますが、Mt.GOXで起きたハッキングはビットコイン、つまりブロックチェーンの脆弱性を突いて行われたハッキングではありません。
もちろんビットコインに脆弱性が全くないわけではありません。
圧倒的ハッシュレートによってチェーンを書き換えてしまう51%攻撃などによって取引所や販売所が攻撃を受ける可能性はあります。
しかし、今回取り上げているMt.GOXでのハッキング事件は仮想通貨のシステム的な面は全く関係のない部分で起きたものでした。
被害額こそこの後起きる別のハッキング事件に抜かれてしまいますが、仮想通貨は危ない、というイメージを作るきっかけになった事件という意味では重要な事件だったのではないかと思います。
Mt.GOXでのハッキングの影響で2011年の6月から11月の約半年かけて価格が下落したビットコインですが元の水準に戻ったのは2012年12月頃……つまり元の水準に戻るのに1年以上かかりました。
最近のビットコインの価格からすると1時間とかからず回復する値幅ですが当時の流動性も出来高も低い時代では回復に非常に時間がかかったことがチャートから見ることが出来ます。
また、ハッキング事件前まで順調に価格が伸びていたこと、下落の底をついた後はゆるやかですが順調に価格をあげていったことを考えるとハッキング事件の影響の大きさはかなりのモノだったといえるでしょう。
2011年にハッキング事件によって悪い意味で目立ってしまうMt.GOXですが、実はこの3年後の2014年にまた大きな事件を起こします。
今回取り上げている暴落とは別の事件になりますが、余談としてご紹介しておきます。
2011年に起きたハッキング事件でユーザーが被った損失を補償するための対応に追われていたMt.GOXですが取引所としての運営は継続して行われていました。
ところが2013年の11月頃からビットコインや現金の入出金の手続きが大きく遅延するようになり問い合わせが殺到する事態になっていました。
具体的な説明がないまま、2014年2月に突然Mt.GOXはビットコインによる払い戻しを全て停止し、取引所内にあるビットコインが消失したと宣言します。
これによってMt.GOXは自社保有分と顧客資産分合わせて85万BTCを消失、28億円分の預金も消失しました。
ハッキング事件の補償もままならない状態でビットコインの消失という事態を引き起こしたMt.GOXは民事再生法の適用申請を行い経営破綻します。
ビットコイン消失による損失のユーザーへの補償についてはハッキング事件の補償同様、現在(2019年3月)も解決されていません。
この事件を由来として何らかの理由で仮想通貨を失うことを"GOXした"と表現することが定着しました。
GOXという表現については一度は目にしたこともあるのではないでしょうか?場合によってはGOXを経験済みの方もいらっしゃるかもしれませんね。
機会があればこのGOX事件に関連した値動きについてもより詳しく取り上げることができればと思います。
時期 | トリガー名 | BTC | 原因 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
高値 | 下値 | 差額 | 騰落率 | |||
2011年6月~11月 | Mt.GOXショック | 1,400円 | 160円 | 1,240円 | -90% | ・取引所Mt.GOXのハッキング |
2017年9月2日~15日 | チャイナショック | 55万円 | 30万円 | -25万円 | -45% | ・BTCC閉鎖 ・中国政府ICO違法見解 |
2017年12月17日~22日 | 先物上場失望ショック | 220万円 | 145万円 | -75万円 | -45% | ・BTC先物情報 ・BTCドミナンス低下 |
2018年1月16日 | 韓・中FUDショック | 140万円 | 105万円 | -35万円 | -25% | ・韓国政府仮想通貨違法認定 |
2018年1月29日~2月5日 | Coincheck事件ショック | 125万円 | 80万円 | -45万円 | -35% | ・取引所Coincheckのハッキング |
2018年3月6日~10日 | BINANCEハッキングショック | 122万円 | 93万円 | -29万円 | -24% | ・BCHのハードフォーク |
2018年11月15日~18日 | BCH分裂ショック | 71万円 | 49万円 | -22万円 | -31% | ・BCHのハードフォーク |