仮想通貨投資においてよく耳にする「ICO」というワード。 ICOとはイニシャル・コイン・オファリングの略語であり、仮想通貨(暗号資産)を使った資金調達の一つの方法です。
具体的には、企業等の仮想通貨の発行元が投資家に対し独自の仮想通貨を発行し、投資家が当該仮想通貨を購入することで資金調達を果すというものです。
このICOについては、海外では規制が厳しくなってきており、日本でも「資金決済法」「金融商品取引法」、それら関連するいくつかの法律の改正や制定、金融庁による対応の変化によって、規制状態がめまぐるしく変わってきています。
では、現在の日本においてICOは適法の範囲内で実施することはできるのでしょうか。
…というわけで、今回は日本におけるICOを今後の動向も含めてご紹介できればと思います。
ICOには企業側、投資家側それぞれにメリットがあります。具体的には、企業側は手軽に資金調達ができ、仮想通貨(暗号資産)という見返りを投資家に与えるため、後の返済が不要となります。
また、仮想通貨は電子データであるため、場所や時間に関係なく資金調達できるメリットを兼ね備えています。
一方で、投資家にとっても、トークンが価値を持てば通貨として利用できるだけでなく、上昇した差額分の利益…「キャピタルゲイン」を得ることができます。
このように、ICOには企業側、投資家側にも利益があるため、日本国内でのICOが注目されるようになりました。ところが、証券会社が引受をおこなうIPOとはことなり、仮想通貨によるICOは、その仮想通貨(暗号資産)の発行元の身分や業績などを証明する必要がなく、また監査機関も存在しなかったことから
を可能にする抜け穴として悪用されるおそれが内在していました。
そのため、金融庁は2017年10月にはICOについての注意喚起を行いました。
その中で、ICOの形態によっては、改正資金決済法や金融商品取引法などの規制にあたること、つまり、国内での禁止案件に該当する可能性が示唆されました。
さらに、2018年11月26日には、仮想通貨交換等に関する研究会において一般投資家に向けてのICOの制限が検討されています。このように、日本国内でのICOは規制される傾向がすすんでいるため、新たにICOを検討している方は注意しなければなりません。
それでは、日本におけるICOが違法となる場合とはどのようなケースが当てはまるのでしょうか。
ICOで発行されるトークンが法律上の仮想通貨に該当するか、該当するとすれば企業が仮想通貨交換業の登録をうけているかが問題となります。それぞれについて詳しく見ていきましょう。
仮想通貨、暗号資産という言葉が認知されるようになりましたが、一言に仮想通貨といっても、世間一般で理解されている意味と法律上で用いられる定義は異なります。
ICOが禁止されるかどうかは、法律上の「仮想通貨」の定義が問題となります。
法律上の「仮想通貨」は、第二条5項において定義されており、1号通貨、および、2号通貨の区分があります。
1号通貨とは、
という、上記3つの条件を満たす必要があります。 また、2号通貨とは、
という、2つの条件を満たす必要があります。
ここで法律の解釈が必要となるのですが、特に1号、2号に登場する「不特定の者」という文言をどのようにとらえるのかがポイントとなります。
この点、法律上の明示はありませんが、金融庁のガイドラインによると、
等について配慮したうえで判断するとされています。
「店舗等」と表現されているので、ややわかりにくくなっていますが、「サービス(役務)を提供する主体」とも言い換えることができ、hubexchangeのようなウェブサービスもサービスの提供主体なので、「店舗等」に含まれることになります(多分)。
1号通貨、2号通貨、そして不特定の者・・・については、簡単に行ってしまえば『円などの法定通貨と同じくらい汎用性が高く使われるのであれば通貨とみなす』ということでしょうね。
それでは、ICOで発行・提供されるトークン・・・すなわち、「上場をしていないトークン」は法律上で定義される仮想通貨に該当するのでしょうか。
繰り返しになりますが、先ほどの、1号通貨、2号通貨に照らし合わせると、不特定多数の者に流通するかが法律上の仮想通貨判定の焦点となります。
この点を考慮すると、仮想通貨取引所に上場前(いわゆる未上場)のトークンは、
を考えると、法律上の仮想通貨には当たらない余地があります。しかし、先述の金融庁の解釈によると、
には、広く不特定の者に取引される可能性があるとして、法律上の仮想通貨に当たるとしています。
以上を踏まえると、日本でのICOは規制が曖昧でありながらも、厳格化(あくまで金融庁の見解に基づく実務的運用)が進んでおりICOの実施が難しくなっていることが分かります。
ですが、資金調達が全くできないわけではなく、実現する方法は残されています。というわけで、具体的なケースをみてみましょう。
トークンが法律上の仮想通貨に該当しなければ(必要条件を充足しなければ)ICOは法に触れることがありません。具体的には会員権型、およびファンド型があげられます。
1 | 会員権型トークン | 発行済みのトークンがいわば会員権のように利用されるもの。所持することにより特定のアクションができたり特別な商品が購入できたりするなどの権利が得られます |
---|---|---|
2 | ファンド型トークン | トークン販売によって得られた資金を事業に活用。当該事業から得られた利益をトークン所持者に分配するもの |
しかしながら、金融庁発表の『ICOについて~利用者及び事業者に対する注意喚起~(PDF)』によれば、「ICOが投資としての性格を持つ場合、仮想通貨による購入であっても、実質的に法定通貨での購入と同視されるスキームについては、金融商品取引法の規制対象となると考えられます。」と記載されています。
どういうことか?というと、ファンド型トークンのファンド組成時に、ファンドへの出資者が「法定通貨ではなくビットコインなどの仮想通貨」を使って支払い(ファンド型トークンの購入)をした場合も、法定通貨で支払ったものと同等の扱いにする・・・ということを意味し、端的にいえば金融商品取引法上のファンド規制に該当するから注意せよ・・・ということを言っているというわけです。
つまるところ、ファンド型トークンによる資金調達(ICO)は、できなくはないけど、現行の金融商品取引法上のファンド規制に基づき、金融庁への登録・届け出が必要ということになります。
発行するトークンが法律上の仮想通貨に該当してしまう場合、それを取り扱うには仮想通貨交換業の登録を行わなければありません。ただし、登録に当たっては綿密なヒアリングが行われるなど、厳しい状態が続いています。そのため、あまり現実的な方法とは言えません。
法律上の仮想通貨は、仮想通貨交換業者によってのみ販売や交換を行えますが、それ以外の方法として・活用できるのが仮想通貨交換業の登録をしている業者です。
IEO(イニシャル エクスチェンジ オファリング)という形式の資金調達法と呼ばれていて、仮想通貨交換業の登録をしている業者に対してトークンの販売や交換を委託する形式です。広く一般にICOが難しい場合の回避策としても取られている側面があります。
ただし、新たに取引所でトークンを販売するには金融庁の認可を受けなければなりません。そのため、早急な資金調達には向いていないというデメリットがあります。
ICOとは直接的には関係はありませんが、「価値が無い仮想通貨を無料で配布」する手法に『エアドロップ』というものがあります。
事前に配布することで、発行した仮想通貨の認知度と期待値を上げることで事前にファンを獲得するマーケティング手法ですが、これに関しては、「無償で発行」されることから、法律上の仮想通貨にはあたらず、当然のことながら日本においては各種規制の対象にはならないようです。
とはいえ、本記事の前半でご紹介した通り、金融庁の見解としては
という要件があるので、『お前、やっぱり(法律上の)仮想通貨な!』と突然宣告される可能性はゼロではありません。
資金を早急に集めたい企業にとって、ICOは手軽におこなえる資金調達法だったといえます。しかし、詐欺(SCAM/スキャム)が横行するなど、リスクも大きいことから金融庁は国内でのICOに否定的です。
それでもなおICOにチャレンジする際は、トークンが法律上の仮想通貨に該当しないこと、該当する場合、販売・交換のためには仮想通貨交換業の登録を受けなければならないことなどを念頭に置くべきでしょう。