株式には、1つのものに対する権利を発行株式数を増やすことで細分化する「分割」と呼ばれる仕組みが存在します。
株価が上がりすぎてしまい、購入単価が高額になってしまった場合に、発行株式数を増加させることで、1株あたりの単価を小さくすることができ、市場への流動性を高めるための施策です(それ以外にもいろいろとありますが…)。
実は、仮想通貨にもそれと似たような「分割」「分裂」を伴う【ハードフォーク】というものが存在します。
仮想通貨は、ブロックチェーンという技術に基づいて構成されるデータの連なりですが、そのデータのかたまりは「ブロック」と呼ばれ、仮想通貨ごとの合意形成アルゴリズム(=コンセンサスアルゴリズム)によって次々とブロックが連結されていく仕組みになっています。
このブロックは、マイナーによって同時に生成された場合に「チェーン」が分岐し、ブロックが長く連なったチェーンが【正】とされるルールがあります。
この、チェーンの分岐のことを「フォーク」と呼んでいるのですが、このブロックの同時生成に起因するフォークとは別に、ブロックチェーンの「仕様変更」によりブロックチェーンを永続的に分岐(フォーク)するパターンも存在しており、その事象は「ハードフォーク」と呼ばれています。
今回は、ビットコインキャッシュ(BCH)のハードフォークが引き起こした悲劇(相場のトリガー)…についてご紹介したいと思います。
2018年11月14日、1BTCあたり71万円近辺をうろついていたビットコインが突然の下落を開始しました。
2018年11月15日から11月18日の停滞期を挟みつつも、二段底を形成し、最終的には下落率約31%、1BTC=49万円を記録する結果となっています。
この暴落のポイントは、価格面におけるサポートラインと言われていた50万円をあっさりと割り込んでしまったことにあります。
これによって相場の総悲観の様相が強くなり、当該暴落後から2019年4月まで低調な相場が続くきっかけとなってしまいました(2019年5月2日時点では1BTCあたり約59万円前後)。
暴落のきっかけは一体何だったのでしょうか?
暴落の主因となったのは間違いなくビットコインキャッシュ(BCH)のハードフォーク騒動…ということができます。
ハードフォークは、頻繁かつ様々な種類の仮想通貨で起きている事象ですが、「仕様変更」によって仮想通貨(というかブロックチェーン)が2つに分岐してしまうことから、一大事であることに変わりはありません。
基本的には、ハードフォーク前の仮想通貨を持っていれば、1:1で分裂後の仮想通貨も手に入れられる場合がほとんどですが、
こともあり、不安は尽きません。
さて、話を戻しまして、ハードフォーク(HF)する原因は主に4つあると言われています。
ざっくり図解すると上記のような感じです。相場トリガーの記事ではありますが、まぁちょっと寄り道をば。
旧(現行)チェーン | Bitcoin |
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新(分岐)チェーン | Litecoin |
ビットコインやイーサリアムなどの主要仮想通貨は、基本的にオープンソースとなっており、それらのソースコードを利用してブロックチェーン(=仮想通貨)の開発ができるようになっています。
ブロックチェーンをゼロから開発する必要がないだけではなく、独自機能を付加することで別のブロックチェーンを生み出すことができるため、2017年頃にはこの手法を使って有象無象の仮想通貨(アルトコインというか草コイン)が誕生しました。
このように既存のブロックチェーンから、アルトコインを生成する際のアクションも「ハードフォーク」の1つとなっており、ライトコイン(LiteCoin)もビットコインのブロックチェーンをもとに生成された仮想通貨だったりします。
旧(現行)チェーン | EthereumClassic |
---|---|
新(分岐)チェーン | Ethereum |
新たにアルトコインを生成するためのハードフォークとは異なり、一旦は【正】とされたチェーンを破棄し、ロールバック(巻き戻し)をした一定地点から分岐する場合のハードフォークも存在します。
イーサリアム(Ethereum)とイーサリアムクラシック(EthereumClassic)がこの典型例でしょう。
イーサリアムの場合は、「The DAO」と呼ばれるプロジェクトがハッキングにあってしまい、約50億円相当のイーサリアムが盗まれてしまいました。
このハッキングが起こる前の時点までロールバックして、分岐した結果生まれたのが現在の「イーサリアム(Ethereum)」なのですね。
ちなみに、分岐前の旧チェーンは名称が変更となり、「イーサリアムクラシック(EthereumClassic)」と命名されています。
超ざっくりですが、非中央集権的な仮想通貨において、中央集権的なこのイーサリアムのハードフォークは相当の非難を浴びることになったという背景もあったりなかったり。
機能にバグがあった場合や、相応の課題を解決する際にブロックチェーンをハードフォークさせる場合があります。
ソフトウェアの場合、細かい修正の場合にはVer1.01…1.02…といった形でマイナーバージョンアップを繰り返していき、大きな変更があった場合には、Ver'2.0と整数の値が変わる(=メジャーバージョンアップ)ことがよくありますが、ここでいう「アップデートによるハードフォーク」はソフトウェアにおけるメジャーバージョンアップとほぼ同様のものと考えるとわかりやすいかもしれません。
アップデートによるハードフォークは、ブロックチェーンネットワーク(コミュニティ)参加者(=マイナー)が合意しているため、分岐後は古いチェーンが採用されることはなく、したがって【仮想通貨の分裂】は起こりません。
旧(現行)チェーン | Bitcoin(BTC) |
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新(分岐)チェーン | BitcoinCash(BCH) |
一方で、仕様変更などにブロックチェーンネットワーク(コミュニティ)参加者(=マイナー)の一部が『方向性の違い』から合意しない場合もあります。
この場合には、ブロックチェーンは新旧に分岐し、それぞれ別のチェーン…つまり、仮想通貨を形成していくことになります。
『方向性の違い』って聞くとビジュアル系バンドの解散しか思い浮かばないw
今回取り上げたビットコインキャッシュの分裂騒動はこの【コミュニティの対立によるハードフォーク】のパターンに該当します。
まず、結論から言うとビットコインキャッシュ(BCH)はこの分裂騒動でBTCABCとBTCSVに分裂しました。
ビットコインキャッシュには開発を進めたりハードフォークでのアップデート内容を議論する「クライアント」と呼ばれるグループが複数存在しており、彼らが集まってコミュニティを形成しています。
今回の分裂ではそのクライアントの一部がABC派とSV派に分かれてしまい仲違いをしたというわけです。
(ハードフォーク前の)ビットコインキャッシュのコミュニティは『本来のビットコインのビジョン』を継承しているとして以前から
本当のビットコイン(BTC)=ビットコインキャッシュであると主張してきました。
そのため、今回の分裂騒動では分裂したどちらの通貨もBCHの名称は使わず、BTCへの回帰も含めて
…と、冠にBTCがついた名称を使用しています。
考えの違いから分裂するに至ったビットコインキャッシュですが、そもそも、ABC・SVそれぞれの考えはどのようなものなのでしょうか。
ABC派がビットコインキャッシュのハードフォーク時のアップデートで提案したのはオラクルを活用したスマートコントラクトの実装とクロスチェーンの実装です。
それぞれの技術について詳しい解説はここでしませんが、簡単に言うと
BTCABC派が提案する機能 | |
---|---|
オラクルによる外部情報の取り込みをスマートコントラクトを絡めてブロックチェーンに落とし込む機能 | |
異なるブロックチェーンとの取引を直接できるクロスチェーンの機能 |
を持たせようという考えです。
一方で、SV派はABC派のアップデート内容に反発する形で立ち上がりました。中心となったのは自称サトシナカモトとして有名なクレイグ・ライト氏です。
ABC派のハードフォーク内容を受けて、SV派はハードフォークを進めると主張しビックブロックの拡張とビットコイン(BTC)のコードを復活させてスクリプトをさらに増やすという2点をアップデート内容として提案しました。
2つのアップデート内容はブロックチェーンの処理能力向上とサトシナカモトが提唱したオリジナルのビットコインに近づけようという考えです。
ビットコインキャッシュの分裂騒動は仮想通貨市場においても大きなニュースとして取り上げられました。
本来であれば、ビットコインキャッシュ(BCH)の内輪揉めの話であるため、影響範囲はビットコインキャッシュに限定される・・・というのが通常の考えです。
ところが、BTCSV派の行動によって市場全体に大きな影響を与えてしまいます。
それは、ABC派のハードフォークを認めずSV派による51%攻撃をもってBTCABCを消滅させるという行動です。
実際には攻撃は行われず双方のハードフォークを認め無事に分岐・分裂し事態は収束へ向かうことになります。その時の日付が2018年11月20日です。
しかし、SV派(主にクレイグ氏)の過激な発言によって議論が長期化した上、分裂前のビットコインキャッシュとビットコインの価格は分裂前から大きな影響を受ける形になりました。
ビットコインへの影響については冒頭の画像をご参照いただければと思いますが、この騒動の大元である「ビットコインキャッシュ」のチャートは?というと上記のような形で推移しました。
チャートを見ると分かるように、分裂騒動が激化した11月始めから分裂騒動の一旦の終息となる11月20日まで大きな陰線が続いていることがわかります。
しかも通貨が分裂したこともあって下落は23日頃から再度進み12月の中頃まで下落が続く形となりました。
11月初めからの一旦の終息を見た20日までの下落は約60%にも及びます。
この暴落の仕方から今回の騒動の影響の大きさを伺い知ることができると思います。
今回振り返った暴落に限らず仮想通貨の大きな値動きの背景には大きなファンダ情報が控えていることがほとんどです。
チャートから分析するテクニカル分析も重要ですが市場に関するファンダ情報には常に敏感にアンテナを張って取引に臨みたいところですね。
時期 | トリガー名 | BTC | 原因 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
高値 | 下値 | 差額 | 騰落率 | |||
2011年6月~11月 | Mt.GOXショック | 1,400円 | 160円 | 1,240円 | -90% | ・取引所Mt.GOXのハッキング |
2017年9月2日~15日 | チャイナショック | 55万円 | 30万円 | -25万円 | -45% | ・BTCC閉鎖 ・中国政府ICO違法見解 |
2017年12月17日~22日 | 先物上場失望ショック | 220万円 | 145万円 | -75万円 | -45% | ・BTC先物情報 ・BTCドミナンス低下 |
2018年1月16日 | 韓・中FUDショック | 140万円 | 105万円 | -35万円 | -25% | ・韓国政府仮想通貨違法認定 |
2018年1月29日~2月5日 | Coincheck事件ショック | 125万円 | 80万円 | -45万円 | -35% | ・取引所Coincheckのハッキング |
2018年3月6日~10日 | BINANCEハッキングショック | 122万円 | 93万円 | -29万円 | -24% | ・BCHのハードフォーク |
2018年11月15日~18日 | BCH分裂ショック | 71万円 | 49万円 | -22万円 | -31% | ・BCHのハードフォーク |