仮想通貨が世界中に広がるにつれて、各国は様々な対応に追われ、それを使ったマネーロンダリングやテロ資金対策などの統制の動きも強化されています。
今回は、日本と世界の仮想通貨に対する法的取り扱いと、「ブロックチェーン・アイランド」として確立されたマルタ共和国の政策、それに沿って拠点を動かした取引所の対応などを解説します。
2017年4月のマネーロンダリング・テロ資金供与対策に関する国際的な要請等を受け、暗号資産(仮想通貨)の交換業者に登録制を導入して以降、日本の金融庁は利用者保護の確保やルールの明確化のための制度整備を進めてきました。
2019年3月15日、金融庁は仮想通貨のルール明確化と制度整備を目的とし、資金決済法および金融商品取引法(金商法)の改正案を閣議決定しました。「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための、資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案」[1]には、その説明資料のスライドが含まれています。
【画像】今回の改正案では、暗号資産をコールドウォレット等で管理することを義務化するほか、法令上の仮想通貨の呼称を「暗号資産」に変更すること、収益分配を受ける権利が付与されたICO(Initial Coin Offering)トークンは金商法対象であることの明確化をすることなどが盛り込まれています。
金融庁は本国会での法案成立を目指し、2020年6月までに施行する見通しであることを明らかにしています。
仮想通貨にまつわるリスクが完全に無くなることはないかもしれませんが、消費者のリスクを最小限に抑えるため、国内で段階的に法的整備をおこない、仮想通貨交換業者への監視を強めていくことは確実でしょう。
一方、仮想通貨取引所の立場からすると、日々刻々と進化する仮想通貨のテクノロジーを受け止めつつ、安定した法整備の中での運用ができない状況が続いています。
では、世界全体で見て、各国による仮想通貨への対応はどうなっているのでしょうか。
フィンテックの隆興と共に仮想通貨を取り巻く環境は絶えず進化しており、全ての地域の規制対応状況を常に最新の状態にアップデートすることは容易ではありませんが、2018年末にComplyAdvantage社が発行した各国の規制の違い(下図)は、最新の状況が綺麗にまとめられています。ここでは、日本の規制は厳しめであるが正当であるとの評価が出ています。
【画像】 [2]その中でも、国際的な仮想通貨専門出版社CoinDeskによって仮想通貨規制のリーダーとして2018年2四半期に認められたのが、マルタです。
CoinDeskが行った調査では、マルタは法域が仮想通貨規制を正しく理解しているとして27%の投票を獲得しており、2位で14%の日本を圧倒的に引き離して一位に君臨しています。
マルタは2017年4月時点から「ブロックチェーン戦略プログラム」を開始しており、仮想通貨とブロックチェーン両方の分野で業界をリードしてきました。
ではそのマルタとは、一体どのような国なのでしょうか。
マルタ共和国(Malta/マルタ)は、南ヨーロッパの共和制国家です。地中海に浮かぶ諸島で、シチリア島と北アフリカ沿岸の間に位置します。人口は約48万人余りの小さな島であり、欧州連合(EU)の加盟国でもあります。
首都はバレッタで、通貨はユーロを使用しています。公用語はマルタ語に加え、イギリス連邦加盟国であるため、英語も公用語として利用されています。このため、ビジネスのしやすい国としても評価されています。
2018年9月27日、マルタ共和国首相Joseph Muscat は国際連盟73回の議会で、マルタがブロックチェーン・アイランドとしてスタートすることを表明しました。
マルタは、分散型台帳技術(DLT)、新規仮想通貨公開(ICO)、仮想通貨に関する規制枠組み(フレームワーク)を、明確に定めた世界で最初の国です。
【画像】 マルタの財務協会であるFinanceMaltaが出すパンフレットには、「ブロックチェーン・アイランドの最終目的地:マルタ」というタイトルで、詳しい導入背景、規制制定の工程、各有識者のコメントなどがまとめられています。このパンフレットを読めば、マルタ共和国全体で仮想通貨の優位性を肯定していること、仮想通貨の合法フレームワークが確立していること、全ての手順を経れば、仮想通貨取引所は合法にそして安定的に運営が許可されることが分かります。
また、国として大々的に仮想通貨やブロックチェーンのプロジェクトを推進しているのも明らかです。
その過程として、2018年7月4日マルタ政府は仮想通貨プロジェクトの誘致を加速させるために、マルタ・デジタル・イノベーション庁法案、技術調整&サービス法案、仮想通貨金融資産法(VFA)の3つの法律を議会で可決しました。
VFAと呼ばれる仮想通貨金融資産法は、それまで業界に投資することに消極的だった投資家が安全にその投資を再考することを期待し、一方でICO発行者の観点からすると、マルタを魅力的な管轄にすることを目的としています。
具体的には、マルタは仮想金融資産に関連するサービスを提供する会社に4種類のライセンスを導入しました。
クラス1から4のライセンスには、さまざまな種類の権利が含まれ、投資レベルも違います。
これらのライセンスを保持するため、始めに関連企業はマルタ金融サービス局(MFSA)に申請する必要があり、申請時には申請料の義務があるほか、各ライセンスには年次監督料が適用されます。
また、マルタでICOを立ち上げるには、まずライセンスを受けたVFAエージェントを任命して、作成したホワイトペーパーをVFAエージェントに提出・承認を受ける必要があります。
その後ICOチームは、ホワイトペーパーをマルタの金融サービス局に登録されるための申請をし、それを請け負うVFAエージェントは、徹底的なKYCチェックを発行体に向け実施する必要もあります。
仮想通貨とブロックチェーンに対するマルタの国家としての対応は、BinanceのCEOであるChangpeng Zhao氏などを含め世界の暗号通貨業界有識者から称賛され、同社は地元のブロックチェーン業界と現地の暗号通貨企業の成長を支援するためにマルタに投資しました。
Zhao氏はTwitter上で
Malta is the first country ever to have a Prime Minister tweet welcoming a #blockchain business to the country. That deserves a round of applause for #Malta." - @cz_binance on The Future of #Crypto at #DELTASummit
マルタ共和国は世界の中で初めて、首相が『我が国はブロックチェーンビジネスを歓迎します』とツイートした国です。この言葉は、マルタへの拍手喝采に値します。
Binanceだけでなはく、Joseph Muscat 首相の発言から、国内外で規制の問題に直面していた海外プレーヤーが、より友好的な仮想通貨の居場所を求めて、マルタへ展開していきました。
2018年の一年間を通じて、仮想通貨取引所OKex、BitBay、Bittrex Internationalなどがマルタで事業を始めました。
さらにマルタに特徴的なのは、欧州連合の中でも国際企業にとって最も低い法人税率を適応していることです。
これは欧州連合平均22%と比較して、わずか5%に設定されており、この点は国際企業の移転にとってもかなり魅力的な要素と言えます。
仮想通貨の合法運用が完全に肯定されている他の国々がほとんど存在しないことを考えると、マルタは論理的にも正しい仮想通貨取引所の居場所であると言えます。[6]
ブロックチェーン・アイランドを目指していると表明しているマルタ共和国。
マルタ島が仮想通貨業界で話題となっているのは、大手の仮想通貨取引所がマルタ島に移転しているからだけではなく、国を挙げた規制対応とテクノロジーに対する支援をしているからでしょう。
ブロックチェーン・アイランドの開発が進むことで、海外の企業の進出を促進し、法人税からの国の財源の増加や、人材確保から雇用の増加、地域の活性化、テクノロジーに関心の高い若者層の移住なども促進することが予想されます。