取引所トークンとは、仮想通貨取引所(暗号資産取引所)が独自に発行しているコインのことです。
これらは取引所トークンのほか、取引所コイン、ネイティブコイン、独自コイン、独自通貨などと呼ばれる場合もあります。
取引所トークンは使用すると手数料が割引になったり、新規通貨の上場投票権がもらえるなど、各取引所によって定められた様々な特典があります。
また、取引所の規模が大きくなるにつれて、売買時の支払手数料としての利用や、取引所利益をベースにした配当増大により、その需要が高まり価格上昇が見込めるという特性もあります。
仮想通貨市場全体が下落基調でも、受け取れる配当や取引のボリュームによって、取引所トークン自体は手堅く価格を上げ続けているものあります。
ただ、取引所トークンは発行する取引所があってこそ価値が存在しますので、プライベート企業である取引所自体が破綻してしまうと、トークンの価値は全てなくなってしまうことに気を付ける必要があります。
Waves社による解説によると、現在トークンには上記の3つのタイプがあるとされています。
セキュリティトークン、ユティリティトークン、そしてエクイティトークンです。というわけで、それぞれの違いを見ていきましょう。
会社の株式などと同様の所有権を得る権利があるトークンがセキュリティトークンです。
このトークンは取引可能な資産によって裏付けされているので、日本でいえば東京証券取引所などの法的規制および制度の対象下となり、そのための監査報告が必要となります。
セキュリティトークンとして分類されるには、特定の取引が「投資契約」という証券取引の定義の一つに該当するかどうかを判定するHoweyテストの要件を満たす必要があります。
「投資契約」は1933年証券法における
の4要件を満たすものを指します。
ユティリティトークンと違い、セキュリティトークンは「証券型(securities)」とその名にある通り、それ自体に価値があるものといえます。
ユーティリティトークンは、製品またはサービスへアクセスするためのツールのようなものです。
一般にみるクーポンやバウチャーなどに匹敵し、顧客サービスやディスカウントプログラムのポイントなども、ユーティリティトークンの例と言えます。
ユーティリティトークンは、セキュリティトークンとは違い、取引可能な資産(=株式のような権利物)には関連付けられていません。
エクイティトークンは、ユーティリティトークンとセキュリティトークンの中間に値するものです。
その法的規制は不明確であり、プロジェクトによってその購入した範囲でのある種のエクイティを提供するため、「未登録の証券」とも呼ばれています。
これらの種類のトークンは複雑な法的フレームワークを必要とします。
取引所トークンに関していえば、ユティリティトークンの役割だけでなくセキュリティトークンの性質を持つものも多く、エクイティトークンに値するものが多いといえます。例えば、PillerVC社は「トークンエクイティコンバチブル(TEC)=トークンをエクイティに変換する」という概念を以下の様に紹介しています。
TECは投資家が仮想通貨会社のエクイティを買うためのメカニズムであり、将来的にそのエクイティをトークンと交換するオプションを持っています。 TEC所有者は、会社の初期の段階では会社を成長させる意向に沿っており、ビジネスモデルが進化し会社が安定したネットワークの立ち上げに成功した時点で、所有者はTEC使用の流動性が与えられます。
と解説しています。
一時期、取引所トークンはポンジスキームだという定説がありました。
ポンジスキームとは、利益余剰金を原資にした配当を約束しながら、実際には資金運用を行わず、後から参加させる別の出資者から新たに集めた資金を以前からの出資者に配当金と偽って渡す手法です。
あたかも、資金運用が行われかつ利益が生まれてそれが配当されているかのように装うため、「詐欺」とされてきました。
ポンジスキームは、言い換えれば、黒字状態にする意志はない企業が、慢性的な赤字状態でありながら他人の資本を次々に回転させて操業を続けていき、最終的に破綻することでもあります。
この点では、取引所の創設者や企業が初めから事業を運営しない方針でない限りは、取引所トークンは頭からポンジスキームだと決めつけることはできません。
原資の有無が配当に影響するため、創設時にトークンも発行して資金調達した取引所は、始めは利益が無ければ新規保有者の出資金を回す場合もあるかもしれません。
しかし、逆に取引所の利用者が増え、売買手数料の増加にあわせて利益が増えてけば、この通りではありません。
いずれにしてもその他の仮想通貨のICOや、企業のIPOの資本金集めと同じく、たまごが先がニワトリが先か的な話であり、運営チームの事業の仕方にもよるため、初期は特に一概に判断がし難いところでしょう。
では実際に、どの仮想通貨取引所がトークンを発行しているのでしょうか。以下にまとめました。
取引所名 | 取引所トークン名 | シンボル |
---|---|---|
Binance | BinanceCoin | BNB |
OKEx | OKB Token | OKB |
Huobi | Huobi Token | HT |
QUOINE | Qash | Qash |
Bibox | Bibox Token | BIX |
TopBtc | TOPBTC Token | TOPB |
FCoin | FCoin Token | FT |
Bit-Z | Bit-Z Token | BZ |
Kucoin | KuCoin Shares | KCS |
CoinEx | CoinEx Token | CET |
CryptoBridge/DEX | Bridge Coin | BCO |
ZAIF | ZAIF Token | ZAIF |
0x | 0x Coin | ZRX |
取引所トークンは、前述のとおり、
といったような主な特徴がありますが、詳細は各取引所により変わってきます。
以下に代表的な機能を載せますので、気になる取引所トークンがある場合は、どの様な機能があるかチェックしてみるとよいでしょう。
機能 | 概要 |
---|---|
手数料の割引 | 取引所で仮想通貨を売買する際、取引所トークンで支払うと手数料が割引になるという特典です。取引所トークンの代表的な特徴ともいえるかもしれません。 取引手数料は、仮想通貨投資をする上で大きな費用が発生する部分にもなりますので、取引手数料が割引になることは非常に有効なメリットだといえます。 |
配当 | 配当は、取引所が上げた収益の一部を配当としてトークン保有者に分配を約束するものです。 取引所トークンを保有しているだけで、その保有量に応じて配当が分配されますので、投資家としても手間をかけることなく堅実に資産を増やせるというメリットがあります。 |
投票権 | ここでいう投票権とは、新規上場予定の通貨を決める投票に参加できる権利です。 取引所トークンの中には、保有するトークンの量が多いほど投票権が大きくなる取引所もあります。一般的に上場した仮想通貨の価格は上昇しますので、それを決める投票に参加できるのは投資家としてメリットといえます。 |
買い戻し(バーン) | バーンとはトークンを焼却すること、つまり、市場に流通しているトークンのうち一定数をその取引所が買い戻して使えないようにすることで、すでに発行されているトークン数を減らすことをいいます。 バーンが行われると、トークンの供給量が減ってその希少性が高まり、需要と供給の法則に基づいてトークンの価格は上昇します。長期的にトークンの価値を上げるための仕組みです。 |
施策名 | 概要 |
---|---|
エアドロップ | エアドロップとは、開発側がそのトークンの知名度向上やトークンの流通を増やすため、自らのトークンを無料で配布することをいいます。取引所が新規トークンを取り扱い(=新規上場)する際に、エアドロップをすることがあります。 |
紹介ボーナス | 既存の取引所トークン所有者が、新規のトークン購入希望者を紹介することによって、トークンのボーナスをもらえることを紹介ボーナスといいます。 保有するトークンの量が多いほどボーナスが大きくなる取引所もあるため、売りを減らして供給を減らす一方、新規登録者の買いを増やして需要を高め、トークンの価値を高める仕組みです。 |
取引マイニング | 取引所トークンを保有していると、取引時の売買手数料の一部がそのトークンで還元される仕組みです。 マイニングという言葉が入っているので混乱しやすいですが、既存のマイニングとは内容を異にします。既存のマイニングはブロックチェーンのネットワークを支えるという価値を提供しているのに対し、取引マイニングはその取引所に支払った手数料の一部を、その取引所が発行する取引所トークンで還元するという意味で使われています。 |
取引所トークンは以上のような特典をトークン所有者に与えますが、取引所側から見ると、マーケティングや新リリースされる分散型取引所の資本として活用していることがわかります。
暗号資産取引所は、取引所トークンを資金調達だけではなく、ユーザーの自取引所への依存度を高めるための施策として活用している…とも言えます。
バイナンスをはじめ、各社で分散型取引所(DEX)の開発やローンチを控えている背景がありますが、そのDEXの基礎となるブロックチェーンとして取引所トークンを活用することが考えられます。
例えばHuobi社は、2018年6月同社独自のオープンソースブロックチェーンプロトコルの作成に3,000万Huobi Tokens(当時1.7憶USドル相当)を割り当てる予定であると発表しています。
取引所、そしてそのトークンは今後どのような方向に向かうのでしょうか。
Forbesによると、2018年6月の時点までで「アクティブな取引」をしている暗号資産取引所は世界で200以上[4]とのこと。
これはみなし業者などは含んでいない数ですが、実際には正確な数が数えられない程暗号資産取引所は全世界に溢れており、取引所自体が増えすぎた飽和状態といっても過言ではありません。
その為、各取引所は新規利用者(や取引所トークンの保有者)を集めるために、様々な特典を提供してユーザーを増やそうとしています。
取引所トークン自体がマーケティング活用の一部であり、前述のエアドロップや取引マイニングなども、集客のためのビジネスモデルというわけです。
取引所自体は一般企業ですので、既存の銀行などと同じように、グローバルに展開する大手、地域性の強い中堅取引所が形成、確立されていくことが予想されます。
取引所トークンの機能も多様化し、前述の様にトークンをエクイティとみなす資金調達の方法としても注目されてくるでしょう。
取引所の規模が大きく、安定して運営している取引所の発行するトークンは、仮想通貨を取引するユーザーにとっては所持すると便利なものであり、さらに取引所の拡大により価格の上昇による利益も見込めることも確かです。
信頼できる取引所、将来性のある取引所を見極めれば、有効な投資手段となるのではないでしょうか。