2019年に入り大手IT企業が本格的にブロックチェーン事業を拡大する動きが相次いでいます。
Facebookはブロックチェーン技術の開発企業を買収、Googleもブロックチェーンプラットフォームの提供を行っている企業との業務提携を発表しました。
本連載では、GAFAの一翼を担うIT業界の巨人たちのブロックチェーン活用の未来を探ってみたいと思います。
FacebookがChainspaceを買収
Facebookが「ブロックチェーンの開発グループであるChainspaceを買収した」と報じられたのは2019年2月5日です。
Chainspaceはブロックチェーンをベースにしたスマートコントラクト技術の開発を行っている企業。
開発チームの中には優秀な人材が多く、今回の買収はFacebookのブロックチェーン事業拡大に向けて人材確保(Acqui-hire アクハイヤー)が目的だったとも言われています。
Shehar Bano
Co-founder, Researcher
出典:公式ウェブサイト「チーム」
それを示すように、ChainspaceのCo-founder(創業者)でもある「Shehar Bano」は2018年のMIT(マサチューセッツ工科大学)が選んだ35歳以下の革新的なイノベーター35傑に選ばれています。
Mustafa Al-Bassam
Co-founder, Researcher
出典:公式ウェブサイト「チーム」
また、同じくCo-founder(創業者)の「Mustafa Al-Bassam」は2016年のForbes誌が選ぶ「30歳未満の30人」に選ばれています。
他にもIT、プログラミング、ソフトウェア、ブロックチェーン、セキュリティなどコンピューターに関する技術の第一線で活躍してきた技術者が多数在籍しています。
今回のFacebookによる買収にあたっては、Chainspaceのホワイトペーパー作成に携わった研究者の5人のうち4人がFacebookのブロックチェーン研究グループに加わったということです。
Chainspaceが発表している共同研究論文
もともとChainspaceのブロックチェーン開発の目的は、より早いトランザクションを実現することでした。
また、仮想通貨としての決済以外への技術の活用方法を模索中であり、今回のFacebookへの買収は双方の利害が一致したと言うことでしょう。
Facebook側は自社の開発能力を高める目的、Chainspace側はより開発規模が大きい環境を手に入れると言う目的です。
ブロックチェーンに食指が動いたFacebookのなぜ
Facebookはここ2年の間、ブロックチェーン事業への本格参入が噂され続けていました。
先述の買収により、いよいよブロックチェーンの活用に本腰を入れたと捉えることができますが、その前にこれまでの「歩み」を振り返ってみたいと思います。
試行錯誤が続いたFacebook内決済
Facebookはブロックチェーンのプロジェクトを社内で立ち上げる以前には、送金や決済システムを独自で構築しようと試行錯誤していました。
2012年には、「Facebook内でアプリのアイテム等に使用されていた電子マネーを廃止」することを発表し、【Facebookが仮想通貨撤退】と報じられたこともありました。
電子マネーの廃止が仮想通貨の(事業活用の)撤退と捉えられた…と聞いて不思議に思う方もいらっしゃるかもしれません。
当時、Facebook内ではアプリのアイテムに限らず「何か」の支払いをする際は、先にクレジットと呼ばれるFacebook内で利用できるポイントを購入しなければなりませんでした。
現在は各国の通貨で購入できるようになっています。
2012年の「仮想通貨」と言えば、ビットコインが世に知られ始めた頃です。
当時はまだ仮想通貨やブロックチェーンというものに対する概念が曖昧だったため、電子マネーと同義で扱われてしまった…というわけです。
さて、Facebookは2016年ごろまではブロックチェーン、仮想通貨に対する目立ったアクションはありませんでした。
Facebook内での個人間送金に関しては「Messenger Payment」というFacebookメッセンジャー上で送金をできるサービスを2015年から開始しています。
しかし、これは既存の銀行を介した送金なので、ブロックチェーンや仮想通貨とは関係なくインターネットバンキングに属するサービスです。ちなみに、日本では楽天銀行と提携してこのサービスを提供しています。
元Paypal副社長デビッド・マーカス氏の入社が転機に
2014年にFacebookに入社したデビッド・マーカス氏はPayPalの副社長を務めた経歴の持ち主です。
仮想通貨やブロックチェーンに関しては、2012年頃から関わりがある…と言われています。
Facebook入社後はメッセンジャーアプリ部門の事業責任者として実績を重ね、前述のMessenger Paymentはデビッド・マーカス氏が事業責任者だった時期にサービスインを実現しています。
Facebookの業務に加え、2017年2月からは米大手の仮想通貨取引所「Coinbase」の取締役も兼務しています。
そして、2018年5月にメッセンジャーアプリ部門の事業責任者を辞し、新たに生まれたFacebookのブロックチェーン事業部の責任者となります。
Facebookとしてはデビッド・マーカス氏の社内外におけるコネクション、見識をブロックチェーン事業に期待したと言えます。
coinbaseの取締役は2018年8月に辞任
Facebookは仮想通貨広告を一時全面禁止したが…
Facebookは2018年1月にFacebook内における仮想通貨広告を全面禁止しました。仮想通貨がらみの悪質な詐欺目的の広告被害が多かったことが理由です。
ちょうどこの時期日本国内でも仮想通貨取引所のCoincheckのハッキングによるNEMの流出騒ぎがあり、いよいよ仮想通貨はおしまいかと言うような空気が流れました。
しかし、Facebookは2018年6月、条件付きで仮想通貨関連の広告の出稿を解禁します。
ICO関連の広告はいまだに禁止ですが、取引所の広告はFacebook内でよく見るようになりました。
同時期にデビッド・マーカス氏がブロックチェーン事業部長になったこと、マーク・ザッカーバーグ氏がブロックチェーンに興味があることを語ったことなど、様々重なりました。
「Facebookは独自の仮想通貨を発行するつもりなのではないか」と憶測が飛びましたが、今のところ独自の仮想通貨に関しては明言されていません。
2019年3月現在までに判明しているFacebookのブロックチェーンに関する動き
現在Facebookのブロックチェーン事業部では、40人ほどのスタッフが勤務していると言われています。
技術者の募集はかなり積極的に行なっているようで、Chainspace買収のようなAcqui-hire(アクハイヤー)は今後も続く可能性があります。
またFacebookが傘下に収めているメッセンジャーアプリ「WhatsApp」に関する動きもありました。
「WhatsApp上で送金できる仮想通貨の開発を進めている」と言う報道が、2018年12月にされたのです。
WhatsAppは日本ではあまりメジャーではありませんが、欧米では最大のシェアを誇るメッセンジャーアプリです。すでに送金のテストはインドで行われることも発表されています。
このWhatsappの仮想通貨システムがFacebookに組み込まれるのではないか、と言う噂がささやかれています。
実現すれば、世界で初めてのSNS上での仮想通貨送金サービスと言うことになります。
ブロックチェーン型のSNSはすでに存在していますが、純粋な送金目的の仮想通貨が搭載されたSNSはまだありません。
STEEMITやALISのシステムは、純粋な決済というよりも現時点では「投げ銭(寄付)」がメインとなっている。