CEXからDEXへ?暗号資産取引所の行方

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ブロックチェーン本来のビジョンと矛盾する「中央集権型取引所(CEX)」の存在

ブロックチェーンの先駆者ビットコイン。一般的には「暗号資産(仮想通貨)」として世間に認知されていますが、そのビットコインが開発された主な背景には、

Decentralized(分散化)された経済の創造

があります。

Decentralized(分散化)は、コンセンサスアルゴリズムといった取引承認における技術的側面のほか、中央集権的な存在による管理を一切排除し中間管理者を置かないピアツーピア(P2P)取引である様体にも大きな特徴があります。

しかし暗号資産が生まれてから、それを取り扱う形態として最も一般的であったのが中央集権型取引所(Centralized Exchange:以下「CEX」)でした。

CEXは、買い手と売り手の間に取引のためのプラットフォームを提供し、仲介管理者として機能します。
しかしながら、そのことは暗号資産が排除すべく最も注意を払っていた「中央集権的な存在」の復権にほかなりません。

CEXは、つまるところ「暗号資産やブロックチェーン自体の背後にある『Decentralized(分散化)』というビジョンと矛盾」している存在なのです。

これに対し、分散型取引所(Decentralized Exchange:以下「DEX」)が開発され、徐々に使用されはじめているという背景があります。
分散型取引所とは、 中央の管理者を介すことなく、P2Pで仮想通貨およびトークンの交換が行える取引所のことです。

2017年頃から小さなDEXが出始め、そして2019年3月仮想通貨取引所の最大手バイナンスがDEXへの移行やCEXとの並行運用を実施し始めました。

BINANCE DEXに関する詳しい情報は『Binance Chain(バイナンスチェーン)が目指す未来』をご参照ください。

マルタを拠点とする仮想通貨取引所大手OKExも、2019年3月に独自のブロックチェーンOKChainを構築し、OKDExと呼ばれる分散型取引所を立ち上げる計画を発表しました。
OKChainは現在最終的な開発段階にあり、2019年6月にはネットワーク起動テストが予定されています。その他シンガポールを拠点とする取引所Huobi(フォビ)も、DEXを提供する計画を進めています。[2]

ソフトウェア開発コンサルティング会社であるCraftchain社のウェブサイトには、CEXとDEXの特徴が以下の様に簡潔にまとめられています。今回は、これらや諸文献や筆者の考察を参考に、CEXとDEXの違いと今後の方向性を解説します。

既存の中央集権取引所(CEX)の特徴

CEXは、買い手と売り手の間の中央仲介者として、取引のためのプラットフォームとして機能します。すべての資金はCEX自体が管理します。これらの取引所は、既存の法定通貨を扱う銀行や証券会社と類似しているので想像がしやすいかもしれません。CEXの主な特徴は次のとおりです。

取引を管理する運営主体の存在

原則として、CEXは特定の管理者が運営している取引所であり、通常は一般企業が運営元です。そのため、ユーザーはその取引所の運営元とシステムを信頼し、資産を預けてサービスを利用することになります。

サービスは、CEXが運用・管理するサーバーやシステム上で稼働しており、このシステムが何らかの理由でダウンしたり、メンテナンスによる停止などが発生した場合には、当然のことながら取引の柔軟性が失われることになります。

ユーザーの利便性、保護

個々のユーザーは取引をするにあたって、特異な技術を習得する必要はありません。取引のための作業は「アカウントの作成」や「売買のための指示」といった最低限のものであり、取引はすべて取引所によって処理されます。
また、取引所とその取引所で行われる取引は国や当局(日本の場合は金融庁)によって規制され、また逆に保証されます。

当局の介入により、消費者保護のもとユーザーの資産は安全に保護されることになります。

ハッキングリスク

CEXは、

  • ユーザーから預かった資産(法定通貨など)
  • 売買された暗号資産

を一元管理しています。

本来、暗号資産のウォレットは、ウォレット(に紐づくアドレス)にアクセスするためのプライベートキーがセットになっており、プライベートキーを使って送金などの処理ができます。

しかしながら、CEXではプライベートキーの管理はCEXが行い、ユーザーには提供されません。つまり、ユーザーがウォレットに直接アクセスすることはできない仕組みになっているというわけです。

ユーザーに提供されるのは、あくまでも管理画面上の「値」であり、また「指定アドレスへの送金の依頼」ができる機能だけです。
管理画面上の「送金の依頼」に基づき、そのユーザーに割当しているウォレット(アドレス)から、指定されたアドレスに向けてプライベートキーを使って送金作業をするのはCEX側(のシステム)なのです。

取引所がハッキングされた際に大ごとになるのは、この点と大いに関係があります。
というのも、ユーザー個々に問題がなくても、取引所自体の管理に問題があると取引所に内包されたユーザーの暗号資産すべてに影響が及ぼされるためです。

実際に体験された方も多いとは思いますが、Mt.GOX(マウントゴックス)事件やCoincheckのXEMハッキング事件は、管理上の瑕疵によって、その取引所のユーザーの資産が盗まれてしまったのです。

Coincheck事件では、取引所が暗号資産をオンライン接続されたホットウォレットに保管していたことが原因となり、ハッキング後にユーザーから預かっていた暗号資産を含めて外部に送金されてしまいました。事件以後、暗号資産の管理は、ホットウォレットとオンライン接続していないコールドウォレットに分別管理することが当局から厳しく規定される結果となりました。詳しくは下記記事をご参照ください。

規制への準拠

公式なCEXは、各国の政府および関係官庁の下で規制の遵守維持を努力しています。
世界大手のCEXであるCoinbase、Bittrex、Geminiなどの取引所では、すべてのユーザーがKYC(本人確認)を行い、身元を確認しています。

透明性、個人情報の開示

政府や当局の規制に従うため、多くの国でCEXを利用する際は個人情報の登録が義務付けられています。
本人確認には手間と時間がかかるうえ、個人情報漏えいなどのリスクも含まれます。

分散型取引所(DEX)の特徴

次にDEX(Decentralized Exchange)の特徴について触れてみたいと思います。

DEXの最大の特徴は取引所の管理者が存在しないということです。
取引はブロックチェーン上で管理されることになり、スマートコントラクトに基づいてすべてが自動的に処理されます。

中央管理者不在

分散型取引所は、個人間による仮想通貨取引が可能な場を提供するだけなので、管理者が取引を仲介しません。

メリット デメリット
・中央管理者による恣意的な操作ができない
・中央管理者が存在しないためDEXがなくなることが無い(運営元が倒産するような概念がそもそも無い)
・中央管理者が不在のためカスタマサポートが無い(純粋なDEX)
・不正な取引であってもそれを管理することはできない(すべて自動処理なので、何を以て不正かという情報がスマートコントラクト上に組み込まれていないと判断できない)
これは中央集権的な独占や操作を防いだり仲介手数料などがないという利点もありますが、その一方でカスタマーサポートなど問い合わせる先がない、中央管理の目が行き届かない取引が許されるかもしれないという欠点もあります。

システムの可用性

DEXでは、暗号資産の取引はブロックチェーン上で処理され、C2C(個人間)で取引が成立します。

DEXのサービスは、CEXのように一元管理されたサーバ上には展開されず、基本的にはブロックチェーンの処理を行うノード上で展開されることが多く可用性(Availability)が高いと言えます。
ただ、ノードの多くは個人が提供するサーバになるため、ノードがオフラインになった場合やノードそのものの提供が停止されてしまった場合には、可用性は担保されません。

資産の独立性

DEX上のウォレットは、ユーザー個々にプライベートキーが提供されるため、「資産の独立性」が担保されます。

一方で、(当局に屈していない)DEXは国家並びに当局による規制の対象外となるため、問題発生時に保護を受けることはできません。プライベートキーをなくしてしまった場合も、その原因はユーザー個々の責任となり、再発行を受ける手立てはありません。

セキュリティ

CEX上のユーザーの暗号資産のウォレットは一元管理されますが、DEXではユーザー個々にウォレットのプライベートキーが提供され、その管理も個々に一任されます。

ハッカーがCoincheckやzaifのようなCEXに行った、全てのユーザーの資金を狙って盗む「一元化されたウォレット」がDEXには存在しないため、相対的に低リスクであるということができます。

ウォレットの管理については、手放しでDEXのセキュリティが強固とは言えない。
相対的にCEXと比較した場合に、プライベートキーの管理が分散されていることから、「リスクが低い」という表現に落ち着いています。

また、DEX上での注文や取引は、ブロックチェーン上で実行されるため、ハッカーによるアタックは「ブロックチェーンが改ざんされにくい理由」をもって最小限に抑えられるということができます。

プライバシー

DEXは仲介となる管理者がいないので、個人情報を登録する必要がありません。
したがって個人情報の漏えいを心配する必要がなく、匿名性を保った取引が可能です。ただし、これは取引の不透明性を招くことにもなり、マネーロンダリングやテロ資金供与などに間接的に関与してしまう可能性があります。

DEXの存在は、法定通貨を管理する国家・当局にとっては目の上のたんこぶでしかありません。

  • 誰が
  • いつ
  • 何を(仮想通貨の種類)
  • どのくらい(仮想通貨の数量)

動かしたのか…という情報のうち、「人」を把握するための「誰が」の部分が捕捉できず、徴税に大きく影響が出るためです。

そのため、「セキュリティトークン(証券性トークン)」を取り扱っていることを理由に、既存の金融市場の規制を当てはめ、DEXにもKYCを求める動きが出てきています。

DEXは分散型の取引所であるため、中央管理者が存在しないという点が大きな特徴と言われていますが、実態としてはブロックチェーンのメンテナンスやユーザーサポートを行う外部協力者が存在します。
規制当局は、これら外部協力者を『このままだとキミたち逮捕するけどいい?』と脅しをかけて、DEXにKYCを導入させ、資産の動きを把握しようとしているというわけです。

管理者が存在しないはずのDEXですが、取引所としての「箱」には外部協力者が関わっているため、現状のDEXは「CEXとのハイブリッド」と認識するのが吉です。

流動性に関する課題

DEXは比較的新しい仕組みである点と、ユーザーサポートなどが無いため、既存の中央集権的取引所とくらべると、まだまだ利用者が少ないというのが実状です。
利用者が少ないということは、そのDEX上での暗号資産の売買も少ないことになり、結果取引が成立しにくいという課題が存在します。

ただ、このような課題は

  • 暗号資産マーケットの盛り上がり
  • 政治的要因
  • 課題解決を支援するプレーヤーの登場

によって解消される可能性は高いと言えます。

ちなみに、「課題解決を支援するプレーヤーの登場」について言うと、例えば取引所(CEX)の「Liquid by Quoine」を提供するQUOINEは、これら流動性を解決するために、すべての取引所の板(Order book)を統合し【World Book】を作るプロジェクト「Liquid」を進めています。

QUOINEが発行する独自トークンQASHについては仮想通貨解説記事の「QASH<$QASH>」に詳しく掲載していますが、Liquidのサービス上でDEXの板情報がWorld Bookの掲載対象になるかは正直わかりません。

DEXの取引情報がAPIで出力されているのであれば、取引データを取得し「Liquid」でユーザーに提供することは可能でしょう。なお、DEXのAPIの仕様や出力方法も結局はDEX運営の外部協力者の手によるものになります。

CEXとDEX特徴はこれまでの通りですが、わかりやすくするために比較表を作成してみました。

CEX DEX
KYC(本人確認) あり なし
取引速度 速い 遅い
ユーザーサポート あり なし
取引データの保全方法 データベース ブロックチェーン
取引データの改ざん可能性 高い 低い
国家/政府当局による介入 あり なし
プライベートキー 中央管理者が管理 ユーザーが管理
流動性 低~高(取引所次第) 低い
問題発生時の資産保全 あり なし

ただ、この表のDEX部分は「理想的なDEX」の姿であり、実態とはかけ離れていることは間違いありません。
というわけで、DEXの実態を入れ込んでみたのが下記の表です。

CEX DEX
実態 理想
KYC(本人確認) あり DEX次第 なし
取引速度 速い DEXが採用しているブロックチェーン次第 遅い
ユーザーサポート あり あり なし
取引データの保全方法 データベース ブロックチェーン ブロックチェーン
取引データの改ざん可能性 高い 低い 低い
国家/政府当局による介入 あり 受け入れ気味 なし
プライベートキー 中央管理者が管理 ユーザーが管理 ユーザーが管理
流動性 低~高(取引所次第) DEX次第 低い
問題発生時の資産保全 あり なし なし
  • 取引速度
  • 国会/政府当局による介入
  • ユーザーサポート

このあたりが、理想のDEXとは異なっている部分でしょうか。

ハイブリッド暗号資産取引所が主流になるのか?

現実的には次世代の暗号資産取引所になりそうな、ハイブリッドDEXと呼ばれる取引所があります。
CEXの機能性と流動性、DEXのプライバシーとセキュリティの強さ…といった、それぞれの「良い点」を統合してしまおう…というものです。

トランザクションはブロックチェーン上かつスマートコントラクトで「ユーザー間」で直接行われ、集客やユーザーサポートは「管理者」が行うといった感じです。

CEXの代表格である「BINANCE」が提供するBINANCE DEXは、これまでイーサリアムのERC規格で構築していたBNB(Binance Token)を独自規格の「Binance Chain」に再構築し、BINANCE DEXでの利用を開始しています。
BINANCEは将来的にはCEXはなくなり、DEXに収束。そして、CEXを運営する企業体はDEXのための単なるコミュニティになる・・・ということを宣言しています。

とはいえ、BINANCE DEXのプラットフォームブロックチェーンである「BNB」は、BIANCEが発行し管理主体もBINANCEです。
DEX(というか分散化)の要件である

  • ブロックチェーン上に構築
  • 管理者不在の分散型

は充足していますが、そのブロックチェーン(BNB)自体の一部保有と命運をBINANCEが握っている・・・という意味では、分散化されているとはいえず、到底DEXと言える代物ではありません。
ただ、ブロックチェーンを最初に作り出した「者」は必ず存在するわけで、このあたりはまさにパラドックスですよね。

ということを考えると、Litecoinを作り出したチャーリー・リーが全Litecoinを放棄(売却)したのは、「分散化」を至上命題にするブロックチェーンのあり方として、理屈は通りますね。
ただ、すでにLitecoinを手に入れているステークホルダーの心情的かつ対外的問題も考慮すると、売却ではなくバーンするのが正解だったのではないでしょうか。

【関連記事】
・仮想通貨解説『Litecoin(ライトコイン)<$LTC>

このようなBINANCEのDEX化をきっかけに、今後は多くのCEX系取引所はDEX化(つまるところブロックチェーンへの回帰)してくのでしょうか(多分ならないw)。

関連記事
執筆者
仮想通貨データ分析ツール「hubexchange」のCPO(Chief Product Officer)。たまにプロジェクト費用捻出に出稼ぎ中。Planning,Analysis,UI-design,Marketing,Writing,PRなど全方位的にコーディング以外なんでも担当。
whatshot ランキング
新着ユーザーズコラム
hubexchangeをフォロー!